Presentation Information
[T4-O-10]Relationship between fabric and seismic statistics in the brittle-ductile transition zone: Shear experiments on lubricated hydrogel particles
*Yuto SASAKI1, Hiroaki KATSURAGI1 (1. Department of Earth and Space Science, University of Osaka)
Keywords:
slow earthquake,brittle ductile transition,fluid rock interaction,soft matter,event statistics,flow law
沈み込み帯におけるプレート境界面上では一般的に,スロー地震と通常の地震とがそれぞれ異なる領域で発生している.通常の地震性すべりによってシュードタキライトなどの地質学的痕跡が形成される一方で [1],スロー地震の発生にはどのような岩石変形構造が伴うのだろうか.本研究では,降伏強度の大きい脆性粒子と低粘性流体とを混合したアナログ物質を用いて,剪断帯の変形挙動がスロー地震と似た統計性を再現することを実験的に示す.
スロー地震は通常の地震と比べて破壊伝播速度が遅いだけでなく,地震の規模ごとの発生頻度および継続時間それぞれについて特徴的な統計則が観測されている.スロー地震は通常の地震と比べて小規模の地震が極端に多く,グーテンベルグリヒター則がしばしば成り立たない [2].また,スロー地震は通常の地震と比べて規模と継続時間の間に線形関係が見出され,断層の自己相似則が破れている [3].こうした2つの統計性の違いは,スロー地震と通常の地震との間で本質的に発生メカニズムが異なることを示す主たる根拠となる.スロー地震の多くは,脆性-延性遷移領域に相当する温度圧力条件で発生しており,脆性破壊と粘性流動とが同時に生じていると考えられている.そのため,脆性-延性遷移を示す岩石組織中にスロー地震の起源を求める地質学的仮説が多く提案されている [4, 5, 6, 7].しかし,こうした脆性-延性遷移挙動がスロー地震を特徴づける2つの統計則に従うか否かについての研究はほとんど無い.
そこで本研究では,粘性流体からなる基質中に粒子を分散させた断層モデル系 [6, 7] の剪断実験を行い,変形中の応力降下イベントの統計解析と変形組織のその場観察を行った.粘性流体として,透明な重液のポリタングステン酸ナトリウム水溶液(比重3)を用い,粒子としてガラスビーズや柔らかいハイドロゲル粒子(粒径 4 mm,最大4000粒子)を用いた.透明なアクリルの2重円筒容器内に重液を入れて粒子を浮遊分散させ,その中央に挿し入れた回転円柱で回転剪断を加えた.剪断速度 10–3–101 /s,空隙率 0.2–1(溶液のみ),粒子の降伏強度よりも十分小さい応力範囲で,室温大気圧下で実験を行った.
実験の結果は以下の3点にまとめられる:
1.粒子層を重液の液面に単層のみ浮遊分散させた場合は,応力降下イベントの規模別頻度分布はスロー地震に見られる指数分布を示した.この傾向は,他の実験条件によらず定性的には同様だった.一方で,浮遊分散させた粒子層が十分に厚い場合は,応力降下イベントの規模別頻度分布はべき分布(グーテンベルグリヒター則)を示した.この傾向は,流体なしの乾燥状態でも定性的には同様だった.
2.粒子層を重液中に浮遊分散させた場合は,応力降下イベントの規模と継続時間との間に線形関係が見られ,スロー地震と似た統計性を示した.この傾向は,粒子層の厚さや流体の表面張力によるなど実験条件によって変化する場合があり,今後詳しく調べる必要がある.一方で,流体なしの乾燥状態では応力降下イベントの規模と継続時間との関係は非線形性を示した.これは通常の地震の自己相似則と似た統計性と言える.
3.実験中の変形構造をその場観察したところ,回転円柱近傍に歪が集中した剪断帯が形成され,その部分で間欠的な粒子運動が生じていた.この時の粒子-重液混合系の流動則(応力-歪速度関係)はビンガム流体的な特徴を示した.これは固相と液相からなる混相流では比較的典型的な特徴だが,内部の局所的な流動則を調べてみると系全体のビンガム流体挙動から逸脱していた.低歪速度下で降伏強度を持つような条件下であっても,数粒子分の局所スケールでは粒子がゆらぎながら動いていることがわかった.この結果は,脆性-延性遷移挙動を示す剪断帯周辺では,変形組織内部で局所的に成り立つ流動則が必ずしも断層全体にわたる挙動を代表していないことを意味する.
今後は,流体粘性に対して降伏強度の小さい脆性粒子を用いて,地質学的に観察されているような脆性-延性遷移領域の粘性比条件下で実験を行う.高粘性流体からなる基質中で低降伏強度の粒子の剪断実験を行うと,図1に示すようなマイロナイトに似た変形組織を再現することができた.このような条件下でスロー地震の統計性が現れるかを調べていく.
[1] Rowe & Griffith (2015) JSG
[2] Chestler & Creager (2017) JGR
[3] Ide & Beroza (2023) PNAS
[4] Kirkpatrick et al (2021) Nat Rev
[5] Behr & Bürgmann (2021) PTRS A
[6] Sibson (2017) EPS
[7] Beall et al (2019) G3
スロー地震は通常の地震と比べて破壊伝播速度が遅いだけでなく,地震の規模ごとの発生頻度および継続時間それぞれについて特徴的な統計則が観測されている.スロー地震は通常の地震と比べて小規模の地震が極端に多く,グーテンベルグリヒター則がしばしば成り立たない [2].また,スロー地震は通常の地震と比べて規模と継続時間の間に線形関係が見出され,断層の自己相似則が破れている [3].こうした2つの統計性の違いは,スロー地震と通常の地震との間で本質的に発生メカニズムが異なることを示す主たる根拠となる.スロー地震の多くは,脆性-延性遷移領域に相当する温度圧力条件で発生しており,脆性破壊と粘性流動とが同時に生じていると考えられている.そのため,脆性-延性遷移を示す岩石組織中にスロー地震の起源を求める地質学的仮説が多く提案されている [4, 5, 6, 7].しかし,こうした脆性-延性遷移挙動がスロー地震を特徴づける2つの統計則に従うか否かについての研究はほとんど無い.
そこで本研究では,粘性流体からなる基質中に粒子を分散させた断層モデル系 [6, 7] の剪断実験を行い,変形中の応力降下イベントの統計解析と変形組織のその場観察を行った.粘性流体として,透明な重液のポリタングステン酸ナトリウム水溶液(比重3)を用い,粒子としてガラスビーズや柔らかいハイドロゲル粒子(粒径 4 mm,最大4000粒子)を用いた.透明なアクリルの2重円筒容器内に重液を入れて粒子を浮遊分散させ,その中央に挿し入れた回転円柱で回転剪断を加えた.剪断速度 10–3–101 /s,空隙率 0.2–1(溶液のみ),粒子の降伏強度よりも十分小さい応力範囲で,室温大気圧下で実験を行った.
実験の結果は以下の3点にまとめられる:
1.粒子層を重液の液面に単層のみ浮遊分散させた場合は,応力降下イベントの規模別頻度分布はスロー地震に見られる指数分布を示した.この傾向は,他の実験条件によらず定性的には同様だった.一方で,浮遊分散させた粒子層が十分に厚い場合は,応力降下イベントの規模別頻度分布はべき分布(グーテンベルグリヒター則)を示した.この傾向は,流体なしの乾燥状態でも定性的には同様だった.
2.粒子層を重液中に浮遊分散させた場合は,応力降下イベントの規模と継続時間との間に線形関係が見られ,スロー地震と似た統計性を示した.この傾向は,粒子層の厚さや流体の表面張力によるなど実験条件によって変化する場合があり,今後詳しく調べる必要がある.一方で,流体なしの乾燥状態では応力降下イベントの規模と継続時間との関係は非線形性を示した.これは通常の地震の自己相似則と似た統計性と言える.
3.実験中の変形構造をその場観察したところ,回転円柱近傍に歪が集中した剪断帯が形成され,その部分で間欠的な粒子運動が生じていた.この時の粒子-重液混合系の流動則(応力-歪速度関係)はビンガム流体的な特徴を示した.これは固相と液相からなる混相流では比較的典型的な特徴だが,内部の局所的な流動則を調べてみると系全体のビンガム流体挙動から逸脱していた.低歪速度下で降伏強度を持つような条件下であっても,数粒子分の局所スケールでは粒子がゆらぎながら動いていることがわかった.この結果は,脆性-延性遷移挙動を示す剪断帯周辺では,変形組織内部で局所的に成り立つ流動則が必ずしも断層全体にわたる挙動を代表していないことを意味する.
今後は,流体粘性に対して降伏強度の小さい脆性粒子を用いて,地質学的に観察されているような脆性-延性遷移領域の粘性比条件下で実験を行う.高粘性流体からなる基質中で低降伏強度の粒子の剪断実験を行うと,図1に示すようなマイロナイトに似た変形組織を再現することができた.このような条件下でスロー地震の統計性が現れるかを調べていく.
[1] Rowe & Griffith (2015) JSG
[2] Chestler & Creager (2017) JGR
[3] Ide & Beroza (2023) PNAS
[4] Kirkpatrick et al (2021) Nat Rev
[5] Behr & Bürgmann (2021) PTRS A
[6] Sibson (2017) EPS
[7] Beall et al (2019) G3

