Presentation Information
[T4-O-12]Element Transfer and Replacement Texture Development associated with Hydrothermal Alteration of Gabbro by Flow-Through experiments
*Kohei SUZUKI1, Otgonbayar DANDAR1, Atsushi OKAMOTO1 (1. Graduate School of Environmental Studies, Tohoku University)
Keywords:
Gabbro,Mineral Replacement Reaction
中央海嶺では海水由来の熱水が地殻内を循環している。熱水は周囲の岩石と反応し、Mg2+やSO4-の除去や、Cu2+などの金属イオンの溶解のような元素移動が起こる[1]。有用金属を含んだ熱水は海底熱水噴出孔から放出され、海底熱水鉱床を形成するほか、海水組成にも影響を与えるため、岩石と海水の反応の詳細を知ることは将来の鉱物資源開発に貢献し得る。
多孔質な玄武岩に対し、緻密な組織を有し浸透率が低い斑れい岩においては熱水循環による変質がどの程度の規模で起きているかはわかっていない。既往の研究でも、海嶺翼部の深部での熱水循環に注目した研究は少なく[2]、実験的研究においても、玄武岩に対して斑れい岩と海水の反応実験はほとんどない[3]。本研究では、斑れい岩-塩水系の流通式水熱実験を行うことで、海水中の各成分が斑れい岩に対しどのように作用するのか、また緻密な組織において変質がどのように進行するのかについて考察する。
出発物質は細粒の斑れい岩で、主に斜長石と単斜輝石から成る。これを2.5×2.5×10mmの角柱状に切り出して岩石試料とした。反応溶液には NaCl溶液、NaCl-MgCl2溶液、NaCl-FeCl2溶液、NaCl-CaCl2溶液の4種類を用い、300°C、25MPa の条件で岩石試料と反応させた。流量は 0.2mL/min 、実験期間は72時間とした。
NaCl溶液およびNaCl-CaCl2溶液では、斜長石の溶解が見られたが析出物は確認されなかった。NaCl-MgCl2溶液では斜長石が選択的に反応しMg緑泥石から成る網状の置換組織を形成した。NaCl-FeCl2溶液では、斜長石と単斜輝石の双方が反応し、斜長石はFe緑泥石、単斜輝石はFe緑泥石とヘマタイトから成る網状の置換組織を形成した。反応後の溶液組成を比較すると、pHはNaCl溶液で8-9と最も高く、NaCl-MgCl2溶液とNaCl-FeCl2溶液ではそれぞれ5.5、 3.7と低い値であった。溶出元素に注目すると、NaCl-MgCl2溶液ではSi、Caが溶出する一方で、Feは溶出しなかったが、NaCl-FeCl2溶液ではSi 、Caに加えMgが溶出した。また、全ての実験に共通してAlはほとんど溶出しなかった。NaCl-MgCl2溶液やNaCl-FeCl2溶液で見られた置換反応に関して、反応前後の鉱物の密度、組成を用いてマスバランス計算を行うと、溶出元素と計算結果が一致するのは体積が30-50%減少するときであり、網状の置換組織は斑れい岩-塩水反応に伴う元素移動によるものであると確かめられた。さらに、溶液計算ソフトCHIM-xptを用いて今回の実験条件における各溶液と斑れい岩の反応を地化学モデリングした。それぞれの溶液で水-岩石比が1000以上の領域で緑泥石の析出が多くなり、NaCl-MgCl2溶液ではMg緑泥石が、NaCl-FeCl2溶液ではFe緑泥石が析出することが確かめられた。また、各溶液のpHが斑れい岩との反応によって変化することも確かめられた。NaCl溶液ではpHが上昇するが、これは斜長石の溶解に伴いH+が吸収されたためであると考えられる。斜長石の溶解に加えて緑泥石が生成する場合、反応全体としてH+が放出されるため、NaCl-MgCl2溶液及びNaCl-FeCl2溶液ではpHが低下すると考えられる。このようなpHの変化は斜長石の溶解速度に影響し、酸性条件においては溶解は進みやすくなる。そのため、緑泥石化によるpHの低下が斜長石の溶解を加速させ、緑泥石化を促進させる可能性がある。
実験結果を天然試料と比較するため、中東・オマーン国にあるオフィオライトの岩石試料を分析した。オマーン・オフィオライトでは斑れい岩の一部が数十mスケールで緑泥石岩に変質している[4]。岩石境界部では単斜輝石のみが緑泥石化しており、緑泥石岩内部では斜長石も緑泥石に置換されていた。緑泥石は置換前の鉱物の外形を残しており、その組成は鉄に富むものであった(Mg# = 0.32-0.40)。実験結果より、オマーン・オフィオライトの緑泥石化は鉄に富む流体が関与したと考えられるが、変質における鉱物の選択性や反応後の組織に相違がある。
参考文献
[1] Alt, J. C. (1995). Geophys. monogr. S., 91, 85-114.
[2] Bosch, D., et al. (2004). Jour. Petrol., 45(6), 1181-1208.
[3] Currin, A., et al. (2018). Lithos, 323, 91-102.[4] Yoshitake, N.,et al. (2009). Jour. Mineral. and Petrol. Sci., 104(3), 156-163.
多孔質な玄武岩に対し、緻密な組織を有し浸透率が低い斑れい岩においては熱水循環による変質がどの程度の規模で起きているかはわかっていない。既往の研究でも、海嶺翼部の深部での熱水循環に注目した研究は少なく[2]、実験的研究においても、玄武岩に対して斑れい岩と海水の反応実験はほとんどない[3]。本研究では、斑れい岩-塩水系の流通式水熱実験を行うことで、海水中の各成分が斑れい岩に対しどのように作用するのか、また緻密な組織において変質がどのように進行するのかについて考察する。
出発物質は細粒の斑れい岩で、主に斜長石と単斜輝石から成る。これを2.5×2.5×10mmの角柱状に切り出して岩石試料とした。反応溶液には NaCl溶液、NaCl-MgCl2溶液、NaCl-FeCl2溶液、NaCl-CaCl2溶液の4種類を用い、300°C、25MPa の条件で岩石試料と反応させた。流量は 0.2mL/min 、実験期間は72時間とした。
NaCl溶液およびNaCl-CaCl2溶液では、斜長石の溶解が見られたが析出物は確認されなかった。NaCl-MgCl2溶液では斜長石が選択的に反応しMg緑泥石から成る網状の置換組織を形成した。NaCl-FeCl2溶液では、斜長石と単斜輝石の双方が反応し、斜長石はFe緑泥石、単斜輝石はFe緑泥石とヘマタイトから成る網状の置換組織を形成した。反応後の溶液組成を比較すると、pHはNaCl溶液で8-9と最も高く、NaCl-MgCl2溶液とNaCl-FeCl2溶液ではそれぞれ5.5、 3.7と低い値であった。溶出元素に注目すると、NaCl-MgCl2溶液ではSi、Caが溶出する一方で、Feは溶出しなかったが、NaCl-FeCl2溶液ではSi 、Caに加えMgが溶出した。また、全ての実験に共通してAlはほとんど溶出しなかった。NaCl-MgCl2溶液やNaCl-FeCl2溶液で見られた置換反応に関して、反応前後の鉱物の密度、組成を用いてマスバランス計算を行うと、溶出元素と計算結果が一致するのは体積が30-50%減少するときであり、網状の置換組織は斑れい岩-塩水反応に伴う元素移動によるものであると確かめられた。さらに、溶液計算ソフトCHIM-xptを用いて今回の実験条件における各溶液と斑れい岩の反応を地化学モデリングした。それぞれの溶液で水-岩石比が1000以上の領域で緑泥石の析出が多くなり、NaCl-MgCl2溶液ではMg緑泥石が、NaCl-FeCl2溶液ではFe緑泥石が析出することが確かめられた。また、各溶液のpHが斑れい岩との反応によって変化することも確かめられた。NaCl溶液ではpHが上昇するが、これは斜長石の溶解に伴いH+が吸収されたためであると考えられる。斜長石の溶解に加えて緑泥石が生成する場合、反応全体としてH+が放出されるため、NaCl-MgCl2溶液及びNaCl-FeCl2溶液ではpHが低下すると考えられる。このようなpHの変化は斜長石の溶解速度に影響し、酸性条件においては溶解は進みやすくなる。そのため、緑泥石化によるpHの低下が斜長石の溶解を加速させ、緑泥石化を促進させる可能性がある。
実験結果を天然試料と比較するため、中東・オマーン国にあるオフィオライトの岩石試料を分析した。オマーン・オフィオライトでは斑れい岩の一部が数十mスケールで緑泥石岩に変質している[4]。岩石境界部では単斜輝石のみが緑泥石化しており、緑泥石岩内部では斜長石も緑泥石に置換されていた。緑泥石は置換前の鉱物の外形を残しており、その組成は鉄に富むものであった(Mg# = 0.32-0.40)。実験結果より、オマーン・オフィオライトの緑泥石化は鉄に富む流体が関与したと考えられるが、変質における鉱物の選択性や反応後の組織に相違がある。
参考文献
[1] Alt, J. C. (1995). Geophys. monogr. S., 91, 85-114.
[2] Bosch, D., et al. (2004). Jour. Petrol., 45(6), 1181-1208.
[3] Currin, A., et al. (2018). Lithos, 323, 91-102.[4] Yoshitake, N.,et al. (2009). Jour. Mineral. and Petrol. Sci., 104(3), 156-163.
