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[T7-O-10]Attempts to elucidate the process of peloid formation by microorganisms

*Fumito SHIRAISHI1, Hannes STENGEL1, Hideaki TANAKA1, Katsunori YANAGAWA2, Naotaka TOMIOKA3, Yoshio TAKAHASHI4 (1. Hiroshima University, 2. The University of Kitakyushu, 3. JAMSTEC, 4. The University of Tokyo)
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 ペロイドは炭酸塩岩中に一般的に含まれており,岩石薄片では微晶質(ミクライト質)で無構造の粒子として観察される.ペロイドには様々な起源があるが,微生物起源のものも多く,しばしばストロマトライトを構成するなど,地球表層の炭素循環に重要な役割を果たしてきた.しかしながら,微生物がどのようにペロイドを形成するのか,その詳細は未だ十分に理解されていない.いくつかの先行研究は,地質時代と現世の微生物性炭酸塩岩の検討から,球状シアノバクテリアなどのコロニーがCaCO3に包埋されることでペロイドが形成した可能性を指摘している.そこで本研究は,実験およびトラバーチンでの検討も踏まえることで,微生物によるペロイド形成過程の解明を目指した.
実験による検討では,球状シアノバクテリアであるSynechocystis sp.およびStanieria sp.の菌株を用いた.酸-塩基滴定および蛍光染色の結果から,Synechocystis sp.の方が細胞表面や細胞外高分子(EPS)にカルボキシ基を多く含んでいることが示された.これらの菌株を光合成誘導CaCO3沈殿に適した実験水に浸し,光を照射して経過を観察した.その結果,Synechocystis sp.では周辺に球形鉱物などが観察された一方で,Stanieria sp.ではそのような鉱物は確認されなかった.これは,酸性EPSが炭酸塩鉱物の核形成に重要な働きを果たしていることを示唆している.透過型電子顕微鏡(TEM)および走査型透過X線顕微鏡(STXM)を用いた観察では,Synechocystis sp.の周辺で形成された鉱物は双晶を伴う単結晶方解石から構成されており,その内部にSynechocystis sp.の細胞は見られなかった.ペロイドが形成されなかった原因としては,シアノバクテリア細胞の密度が低かったことや,酸性EPSが薄かったことなどが考えられる.
一方,トラバーチンの検討は大分県長湯温泉で実施した.ここでは直径約20~50 µmのペロイドが扇状アラゴナイト間の凹部に集積しており,その周囲には石灰化していない糸状シアノバクテリアが分布していた.このペロイドの内部をTEMおよびSTXMで観察したところ,ペロイドの中心部は約200~500 nmの微粒状アラゴナイトから構成されており,その周囲を針状アラゴナイトが取り囲んでいることが明らかとなった.また,中心部では幅約100 nm,長さ約0.5~1.5 µmのフィラメント状アラゴナイトが見られ,その周囲ではカルボキシ基に由来する288.6 eVでのX線吸収が認められた.これらの観察結果から,何らかの微生物が放出した酸性EPSが核となって微粒状アラゴナイトが沈殿し,それが非酸性EPSを持つ糸状シアノバクテリアによって保持されることで,互いに連結しないペロイド粒子が形成されていることが示された.
以上の結果から,微生物によってペロイドが形成されるためには,1) 微晶質となるために必要な,酸性EPSなど結晶核形成場の供給,2) 沈殿を引き起こすために必要な,非生物的または生物的に十分高められたCaCO3飽和度,3) ペロイドが互いに連結しない粒子として存続するために必要な,非酸性EPSなど結晶核形成に不適な周辺マトリックスが必要であると考えられる.