Presentation Information
[T7-O-16]Hydrocarbon resource potential of Kuji Group, Iwate, Japan evaluated by sedimentological and organic geochemical analyses
*Shogen YAMAGISHI1, Takuto ANDO1, Shun CHIYONOBU1 (1. Graduate School of International Resource Sciences, Akita University, Japan)
Keywords:
Depositional environment,Rock-Eval analysis,Hydrocarbon resource,Cretaceous,Kuji Group
[はじめに]
岩手県北東部に分布する上部白亜系久慈層群は,蝦夷前弧堆積盆北上亜堆積盆の西縁を構成し(Ando, 1997),これまで主に堆積相解析や層序学的観点より研究がされてきた(島津・寺岡, 1962; 吉田ほか, 1987; 照井・長浜, 1995; Ando, 1997, 2003).また,蝦夷前弧堆積盆における上部白亜系から古第三系は,炭化水素鉱床や天然ガス鉱床としても注目されており,特に非海成層における含炭層が根源岩として重要であること(大澤ほか, 2002)が指摘されている.さらに,木村ほか(2005)では,本層群の有機物は保存状態が良く未熟成であることが示唆されており,本層群の堆積岩中の有機物は堆積環境の情報を多く保持しており,蝦夷前弧堆積盆全体の炭化水素資源ポテンシャルを評価する際に重要である.しかし,本層群の堆積岩中の有機物を用いた研究事例は少なく,特に堆積環境の検討についての研究事例は日本国内においても非常に少ない.本研究では,上部白亜系久慈層群を対象とした地質調査による堆積相解析に加え,ケロジェンの顕微鏡観察(パリノファシス分析・パリノモルフ分析)および有機化学分析を行い,久慈層群における堆積環境と炭化水素資源としてのポテンシャルの再検討を行った.
[研究地域・手法]
岩手県久慈市および野田村に位置する夏井川,沢山川,枝成沢,玉川海岸の4つのセクションにて地質調査を行い,岩相記載及び主に泥岩・シルト岩の試料の採取を行った.採取した試料は,粉末化してRock-Eval分析と全硫黄(TS)分析,酸(HCl, HF)処理後にパリノファシス分析およびパリノモルフ分析を行った.
[結果・考察]
岩相記載より,河川から上部外浜のような広域な堆積環境であると考えられている玉川層は,パリノファシス分析によると上位に向かうにつれてAOM (Amorphous Organic Matter) の割合が上昇し,特に非蛍光性を示すNFA (non-fluorescent AOM) の割合がその中でも上昇することが分かった.また,全有機炭素(TOC) ,全硫黄(TS)はともに本層上部に向かって高くなる傾向がみられ,TOCは0.02 %から7.35 %の範囲で,TSは最大で約2.32 %であった.一方,Tmaxは前述の傾向と逆の傾向が見られ,上部に向かって低くなる.これらの結果より,玉川層の堆積環境は海水準変動によって河川~沿岸環境の中で変化するも,全体的に海進を反映して推移することが示唆された.さらに玉川層上部はラグーンのような有機物と硫黄が保存されやすい閉鎖的な環境であり,比較的低い温度で結合が切断される硫黄を含むケロジェンが保存されたことでTmaxが局所的に低くなっていると考えた.そして,久慈層群内で最も有機物と硫黄の保存性が認められるこの堆積相は,蝦夷前弧堆積盆の上部白亜系における炭化水素資源ポテンシャルを検討する上で重要であることがいえる.
国丹層は,岩相記載では上部外浜から内側陸棚の様な浅海環境であるとされ,パリノファシス分析においては久慈層群内で最もAOMが高い層となった.また,TOCやTSは国丹層下位の玉川層から大きく減少するが,層内での値は変化が少なく,TOCは0.02 %から2.22 %の範囲で,TSは最大で約1.03 %となった.これらの結果より国丹層の堆積環境は,浅海環境であるが有機物があまり保存されず,酸化的な環境であったことが示唆された.さらに,国丹層の大部分の岩相は砂岩であることから,貯留層としての有用性の検討も可能である.
沢山層は,岩相記載では河川及びその氾濫原のような堆積環境であるとされ,パリノファシス分析からは国丹層に次いでAOMの割合が高くなり,植物片の中でも不透明植物片と半透明植物片がおよそ半分の割合でそれぞれ存在していることが分かった.また,TOCは0.05 %から2.06 %の範囲で,TSは最大で約1.14 %となり,層内でのばらつきが玉川層・国丹層よりも大きかった.これらの結果より沢山層の堆積環境は,陸域の河川及び氾濫原で静穏で有機物が保存されやすい環境とされづらい環境が混在する酸化的な環境であったことが示唆された.沢山層の堆積岩は有機物をほとんど含まない凝灰質であり,植物化石や植物片の含まれる割合の変化によって,TOC及びTSのばらつきが生じているといえる.
[引用文献]
Ando, 1997, The Geological Society of Japan, 48
Ando, 2003, Journal of Asian Earth Sciences, 21
大澤ほか, 2002, 石油技術協会誌, 67(1)
木村ほか, 2005, 福岡大学理学集報, 35(1)
島津・寺岡, 1962, 陸中野田(青森第59号), 5萬分の1地質図幅説明書
照井・長浜, 1995, 地質学論集, 45
吉田ほか, 1987, 陸中大野地域の地質(青森第49号), 5万分の1地質図幅説明書
岩手県北東部に分布する上部白亜系久慈層群は,蝦夷前弧堆積盆北上亜堆積盆の西縁を構成し(Ando, 1997),これまで主に堆積相解析や層序学的観点より研究がされてきた(島津・寺岡, 1962; 吉田ほか, 1987; 照井・長浜, 1995; Ando, 1997, 2003).また,蝦夷前弧堆積盆における上部白亜系から古第三系は,炭化水素鉱床や天然ガス鉱床としても注目されており,特に非海成層における含炭層が根源岩として重要であること(大澤ほか, 2002)が指摘されている.さらに,木村ほか(2005)では,本層群の有機物は保存状態が良く未熟成であることが示唆されており,本層群の堆積岩中の有機物は堆積環境の情報を多く保持しており,蝦夷前弧堆積盆全体の炭化水素資源ポテンシャルを評価する際に重要である.しかし,本層群の堆積岩中の有機物を用いた研究事例は少なく,特に堆積環境の検討についての研究事例は日本国内においても非常に少ない.本研究では,上部白亜系久慈層群を対象とした地質調査による堆積相解析に加え,ケロジェンの顕微鏡観察(パリノファシス分析・パリノモルフ分析)および有機化学分析を行い,久慈層群における堆積環境と炭化水素資源としてのポテンシャルの再検討を行った.
[研究地域・手法]
岩手県久慈市および野田村に位置する夏井川,沢山川,枝成沢,玉川海岸の4つのセクションにて地質調査を行い,岩相記載及び主に泥岩・シルト岩の試料の採取を行った.採取した試料は,粉末化してRock-Eval分析と全硫黄(TS)分析,酸(HCl, HF)処理後にパリノファシス分析およびパリノモルフ分析を行った.
[結果・考察]
岩相記載より,河川から上部外浜のような広域な堆積環境であると考えられている玉川層は,パリノファシス分析によると上位に向かうにつれてAOM (Amorphous Organic Matter) の割合が上昇し,特に非蛍光性を示すNFA (non-fluorescent AOM) の割合がその中でも上昇することが分かった.また,全有機炭素(TOC) ,全硫黄(TS)はともに本層上部に向かって高くなる傾向がみられ,TOCは0.02 %から7.35 %の範囲で,TSは最大で約2.32 %であった.一方,Tmaxは前述の傾向と逆の傾向が見られ,上部に向かって低くなる.これらの結果より,玉川層の堆積環境は海水準変動によって河川~沿岸環境の中で変化するも,全体的に海進を反映して推移することが示唆された.さらに玉川層上部はラグーンのような有機物と硫黄が保存されやすい閉鎖的な環境であり,比較的低い温度で結合が切断される硫黄を含むケロジェンが保存されたことでTmaxが局所的に低くなっていると考えた.そして,久慈層群内で最も有機物と硫黄の保存性が認められるこの堆積相は,蝦夷前弧堆積盆の上部白亜系における炭化水素資源ポテンシャルを検討する上で重要であることがいえる.
国丹層は,岩相記載では上部外浜から内側陸棚の様な浅海環境であるとされ,パリノファシス分析においては久慈層群内で最もAOMが高い層となった.また,TOCやTSは国丹層下位の玉川層から大きく減少するが,層内での値は変化が少なく,TOCは0.02 %から2.22 %の範囲で,TSは最大で約1.03 %となった.これらの結果より国丹層の堆積環境は,浅海環境であるが有機物があまり保存されず,酸化的な環境であったことが示唆された.さらに,国丹層の大部分の岩相は砂岩であることから,貯留層としての有用性の検討も可能である.
沢山層は,岩相記載では河川及びその氾濫原のような堆積環境であるとされ,パリノファシス分析からは国丹層に次いでAOMの割合が高くなり,植物片の中でも不透明植物片と半透明植物片がおよそ半分の割合でそれぞれ存在していることが分かった.また,TOCは0.05 %から2.06 %の範囲で,TSは最大で約1.14 %となり,層内でのばらつきが玉川層・国丹層よりも大きかった.これらの結果より沢山層の堆積環境は,陸域の河川及び氾濫原で静穏で有機物が保存されやすい環境とされづらい環境が混在する酸化的な環境であったことが示唆された.沢山層の堆積岩は有機物をほとんど含まない凝灰質であり,植物化石や植物片の含まれる割合の変化によって,TOC及びTSのばらつきが生じているといえる.
[引用文献]
Ando, 1997, The Geological Society of Japan, 48
Ando, 2003, Journal of Asian Earth Sciences, 21
大澤ほか, 2002, 石油技術協会誌, 67(1)
木村ほか, 2005, 福岡大学理学集報, 35(1)
島津・寺岡, 1962, 陸中野田(青森第59号), 5萬分の1地質図幅説明書
照井・長浜, 1995, 地質学論集, 45
吉田ほか, 1987, 陸中大野地域の地質(青森第49号), 5万分の1地質図幅説明書
