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[G-O-36]Development of contourite drifts controlled by bottom currents and bathymetric effects on the outer-rise along the Kuril Trench

*Hisashi IKEDA1, Kiichiro KAWAMURA1 (1. Graduate School of Sciences and Technology for Innovation, Yamaguchi University)
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Keywords:

Contourite drift,Lower Circumpolar Deep Water,Active margin,Outer-rise

 深海底における堆積作用の一端を担うコンターライトは、底層流による持続的な粒子輸送と選別によって形成されるマウンド状堆積体であり、その内部には古気候・海洋変動履歴が高解像度で保存される(Rebesco et al., 2014)。大西洋や南極海などの非活動的縁辺域では、コンターライトの存在が多数報告され、古海洋学的な情報源としての重要性が確立されてきた。一方、変動地形が卓越する活動的縁辺域では、断層活動や地震・噴火イベント層の堆積により、堆積記録の連続性が損なわれやすく、コンターライトの分布や形成プロセスに関する知見は限られている。
本研究では、プレート沈み込み帯外縁に位置する千島海溝アウターライズを対象に、活動的縁辺域におけるコンターライト・ドリフトの分布とその形成プロセスを明らかにすることを目的とした。本地域は、南極起源の下部周極深層水が西部深層境界流の一部として北上する、北太平洋の主要な深層水供給経路にあたる(Kawabe and Fujio, 2010)。さらに、襟裳海山などの突出地形との接触により流向の屈曲や流速の増強といった局所的な流体–地形相互作用が生じている(Ueno et al., 2024)。こうした作用は、底層流の流路とエネルギー分布に空間的不均質をもたらし、局所的な堆積・選別・浸食環境の形成に寄与すると考えられる。
本研究では、マルチビーム測深データ、マルチチャンネル反射法地震探査(MCS)、サブボトムプロファイラ(SBP)、および表層堆積物コアを統合的に用いて、コンターライト・ドリフトの形状・内部構造・物性・堆積速度を解析した(JAMSTEC, 2004)。その結果、凌風第二海山を挟んで北東側に舌状のドリフト(約2000 km2)、南西側にドーム状のドリフト(約12,000 km2)が、いずれも凹地地形(Moat; モート)と隣接して発達していることが明らかとなった。両者はMCS断面によっていずれも5つのユニットに区分された。各ユニットにはダウンラップ、トランケーションなどの特徴的な反射構造が記録されていた。この内、舌状ドリフトでは、頂部が南西から北西へと時間とともに移動しており、底層流の強度や流向の変化を反映している可能性がある。また、南東側のモートでは流速の増加により、選別作用が強まり、堆積物の浸食や非堆積が顕著だったと解釈される(Hernández-Molina et al., 2006)。一方、ドーム状ドリフトは北部でモートに接するマウンド形状を呈し、南部ではシート状に移行していた。ドリフト表面には、波長約4〜6 km、振幅約20〜50 mのセディメントウェーブが等深線と直交する方向に伸長し、SBP断面では反射面の漸進やトランケーションが観察された。これは、現在も継続する底層流による選別・浸食の痕跡と考えられる。さらに、表層堆積物コアの解析では、北西部(底層流の低エネルギー域と考えられる)で約11.9 cm/kyr、南東部(高エネルギー域)で約4.3 cm/kyrという顕著な堆積速度差があった。これは、地形や流速に応じた堆積環境の空間的な不均質性を示している。
これらの結果を総合すると、千島海溝アウターライズにおけるコンターライト・ドリフトの発達は、活動的縁辺域に特有の地形と、それに伴う水理的な流路の変化によって規定されていると言える。本地域では、斜面の直下に深海平原が存在しない。そのため、底層流が海溝によって流下経路を遮られ、流れはアウターライズの浅部地形に沿って側方に回り込むことが推測される。その結果、海山や起伏に富んだ地形によって進路を強制的に屈曲・集中させられる。これにより、局所的な堆積物トラップが形成され、そこにコンターライト・ドリフトが発達する。このようなメカニズムは、非活動的縁辺域に見られるような、底層流が斜面から深海平原へ連続的に流下し、流軸上に広くドリフトが発達するモデルとは根本的に異なる。これらの特徴は、地震や火山活動に伴って形成される短期的なイベント層とは異なり、活動的縁辺域においても、連続的かつ高解像度の古気候・海洋変動履歴が形成・保存されることを示している。
引用文献:Rebesco et al. (2014). Mar. Geol.; Kawabe and Fujio (2010). J. Oceanogr.; Ueno (2024). J. Oceanogr.; Hernández-Molina et al. (2006). Mar. Geol.; JAMSTEC Seismic Survey Database (2004). Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology.