Presentation Information
[T4-P-2]Frictional behavior of landslide-prone soils influenced by water adsorption
*Ryosei OMORI1,2, Miki TAKAHASHI2, Hideo HOSHIZUMI3, Ayumu MIYAKAWA3, Shigeo OKUMA3, Shin-Ichi UEHARA1 (1. Graduate School of Science, Toho University, 2. Research Institute of Earthquake and Volcano Geology, AIST, 3. Research Institute of Geology and Geoinformation, AIST)
Keywords:
clay,friction strength,rate-dependent friction,total specific surface area,adsorbed water
我々は変質作用による岩石・土壌の粘土化が,地すべりのすべり様式に与える影響を評価することを目的に,地すべり土の物性試験を行っている.特に,①「地すべり土の摩擦強度およびそのすべり速度依存性を決定する因子」を明らかにすること.さらに,②「それら摩擦特性がすべり様式に与える影響」を明らかにしたい.地すべりの発生しやすさは,地すべり面を構成する物質の摩擦強度が決める(Skempton, 1985).しかし,地すべりが安定的にすべるか,不安定なすべりに至るかは,摩擦強度そのものが決めているわけではなく,すべりの加速に伴う摩擦強度の増減が決定する(Dieterich, 1979).
そこで①の解明のために,熊本県の阿蘇中央火口丘群西部の斜面崩壊多発地帯から採取した風化火山灰土を対象に,地すべりを模擬した剪断実験を実施した.加えて,各種性質(粘土鉱物量・吸着水量・全比表面積)と,摩擦強度およびそのすべり速度依存性の関係について検討した.①で得られた成果を②に発展させることを念頭に,令和5年6月30日豪雨による大分県湯布院町畑倉にて発生した地すべりを例に現地調査と大分県より提供を受けたボーリングコアの観察を行っている.
①において,X線回折分析の結果,試料にはスメクタイト,カオリナイト,アルナイト,非晶質シリカ,ガラスが含まれていた.ここで,粘土鉱物量と吸着水量は熱重量・示差熱分析を用いて推定した.各試料40 mgを1000℃まで加熱し,室温から250℃までは吸着水の脱水による重量減少とし,それ以上の温度では,各鉱物の熱分解反応生成物の揮発による重量減少と考え,この揮発成分の重量から粘土鉱物量と吸着水量を求めた.全比表面積はEGME法で求めた(Eltantawy and Arnold, 1973).EGME法は,外部比表面積のみならず,スメクタイトの層間を含む比表面積を測定できる.これにより,熱重量・示差熱分析で求めたスメクタイト含有量,吸着水量を全比表面積と比較することができる.剪断実験は,回転式高速摩擦試験機を用いた(Togo and Shimamoto, 2012).常温,垂直応力1 MPa程度,含水条件のもと,すべり速度を10 – 10² μm/sの範囲で,摩擦強度のすべり速度依存性を測定した.また,一定のすべり速度4.8μm/sで24時間剪断し,摩擦強度の定常状態の値を得た.
用いた試料を大別すると,スメクタイトが多い試料と,カオリナイトを多く含む試料に分かれた.スメクタイトとカオリナイトの含有量の最大値は,それぞれ74 wt.%,31 wt.%であった.吸着水量はスメクタイト含有量に依存せず,最大で18 wt.%であった.また,全比表面積の最大値は,549.3 m²/gであった.全比表面積と粘土鉱物量(特にスメクタイト)との間に明瞭な相関はみられず,むしろ,全比表面積と吸着水量に高い相関が確認された.定常状態の摩擦強度は0.11 MPaから0.53 MPaの範囲を取り,粘土鉱物量との明瞭な相関はみられなかった.一方,全比表面積,吸着水量と定常状態の摩擦強度との間には,それぞれ負の相関が確認された.また,摩擦強度のすべり速度依存性は,大きい全比表面積を持つ試料では,すべり速度10⁰ - 10¹ μm/sで速度中性となり,すべり速度10² μm/sで速度強化を示した.一方で,小さい全比表面積を持つ試料では,すべてのすべり速度で速度弱化を示した.
以上より,土壌の全比表面積が,水の吸着能力を支配し,かつ,吸着した水が摩擦強度を低下させていると考えられる.また,大きい全比表面積を持つ土壌は,低い摩擦強度に起因して緩傾斜でもすべりやすいが,安定なすべりを示すと考えられる.当初,スメクタイトの量が多ければ,土壌の吸着水が多くなると予想したが,必ずしもそうではないようである.
②について現時点での進捗を記す.畑倉地区周辺は,前期更新世の川西安山岩を基盤岩とする熱水変質地帯である(星住ほか, 1988).崩壊壁の西側斜面の現地調査の結果,脈状の青白色の粘土がみられ,西側斜面外側でのボーリングコアにおいても強い変質が確認された.一方で,東側斜面は現地調査・ボーリングコアの観察結果どちらにおいても原岩に亀裂が多くみられ,粘土化している箇所は少ない.よって,地すべり地内で異なる摩擦特性を持つ物質が不均質に分布していた可能性がある.今後,ボーリングコアの物質解析と剪断実験を行い,摩擦特性がすべり様式に与えた影響を評価していきたい.
文献
Dieterich (1979) JGR. Eltantawy and Arnold (1973) J. Soil. Sci. 星住ほか (1988) 5万分の1別府図幅. Skempton (1985) Géotechinique. Togo and Shimamoto (2012) J. Struct. Geol.
そこで①の解明のために,熊本県の阿蘇中央火口丘群西部の斜面崩壊多発地帯から採取した風化火山灰土を対象に,地すべりを模擬した剪断実験を実施した.加えて,各種性質(粘土鉱物量・吸着水量・全比表面積)と,摩擦強度およびそのすべり速度依存性の関係について検討した.①で得られた成果を②に発展させることを念頭に,令和5年6月30日豪雨による大分県湯布院町畑倉にて発生した地すべりを例に現地調査と大分県より提供を受けたボーリングコアの観察を行っている.
①において,X線回折分析の結果,試料にはスメクタイト,カオリナイト,アルナイト,非晶質シリカ,ガラスが含まれていた.ここで,粘土鉱物量と吸着水量は熱重量・示差熱分析を用いて推定した.各試料40 mgを1000℃まで加熱し,室温から250℃までは吸着水の脱水による重量減少とし,それ以上の温度では,各鉱物の熱分解反応生成物の揮発による重量減少と考え,この揮発成分の重量から粘土鉱物量と吸着水量を求めた.全比表面積はEGME法で求めた(Eltantawy and Arnold, 1973).EGME法は,外部比表面積のみならず,スメクタイトの層間を含む比表面積を測定できる.これにより,熱重量・示差熱分析で求めたスメクタイト含有量,吸着水量を全比表面積と比較することができる.剪断実験は,回転式高速摩擦試験機を用いた(Togo and Shimamoto, 2012).常温,垂直応力1 MPa程度,含水条件のもと,すべり速度を10 – 10² μm/sの範囲で,摩擦強度のすべり速度依存性を測定した.また,一定のすべり速度4.8μm/sで24時間剪断し,摩擦強度の定常状態の値を得た.
用いた試料を大別すると,スメクタイトが多い試料と,カオリナイトを多く含む試料に分かれた.スメクタイトとカオリナイトの含有量の最大値は,それぞれ74 wt.%,31 wt.%であった.吸着水量はスメクタイト含有量に依存せず,最大で18 wt.%であった.また,全比表面積の最大値は,549.3 m²/gであった.全比表面積と粘土鉱物量(特にスメクタイト)との間に明瞭な相関はみられず,むしろ,全比表面積と吸着水量に高い相関が確認された.定常状態の摩擦強度は0.11 MPaから0.53 MPaの範囲を取り,粘土鉱物量との明瞭な相関はみられなかった.一方,全比表面積,吸着水量と定常状態の摩擦強度との間には,それぞれ負の相関が確認された.また,摩擦強度のすべり速度依存性は,大きい全比表面積を持つ試料では,すべり速度10⁰ - 10¹ μm/sで速度中性となり,すべり速度10² μm/sで速度強化を示した.一方で,小さい全比表面積を持つ試料では,すべてのすべり速度で速度弱化を示した.
以上より,土壌の全比表面積が,水の吸着能力を支配し,かつ,吸着した水が摩擦強度を低下させていると考えられる.また,大きい全比表面積を持つ土壌は,低い摩擦強度に起因して緩傾斜でもすべりやすいが,安定なすべりを示すと考えられる.当初,スメクタイトの量が多ければ,土壌の吸着水が多くなると予想したが,必ずしもそうではないようである.
②について現時点での進捗を記す.畑倉地区周辺は,前期更新世の川西安山岩を基盤岩とする熱水変質地帯である(星住ほか, 1988).崩壊壁の西側斜面の現地調査の結果,脈状の青白色の粘土がみられ,西側斜面外側でのボーリングコアにおいても強い変質が確認された.一方で,東側斜面は現地調査・ボーリングコアの観察結果どちらにおいても原岩に亀裂が多くみられ,粘土化している箇所は少ない.よって,地すべり地内で異なる摩擦特性を持つ物質が不均質に分布していた可能性がある.今後,ボーリングコアの物質解析と剪断実験を行い,摩擦特性がすべり様式に与えた影響を評価していきたい.
文献
Dieterich (1979) JGR. Eltantawy and Arnold (1973) J. Soil. Sci. 星住ほか (1988) 5万分の1別府図幅. Skempton (1985) Géotechinique. Togo and Shimamoto (2012) J. Struct. Geol.
