Presentation Information

[T4-P-4]Mass transfer in a hydrated ductile shear zone developed in the crust-mantle boundary

*Itsuki NATSUME1, Katsuyoshi MICHIBAYASHI2,3, Atsushi OKAMOTO4 (1. Kanagawa Prefectural Museum of Natural History, 2. Department of Earth and Planetary Sciences, GSES , Nagoya University, 3. Volcanoes and Earth's Interior Research Center, IMG, JAMSTEC), 4. Graduate School of Environmental Studies)
PDF DownloadDownload PDF

Keywords:

the crust-mantle boundary,the Moho Transition Zone,hydrated ductile shear zone,mass transfer,Oman ophiolite

 岩相境界における水-岩石反応では拡散や移流といった流体を媒介とした物質移動が起き、反応帯が形成される(e.g. Codillo et al. 2022)。このようにして形成される反応帯は鉱物組成や組織の違いからレオロジーにも大きな影響を与えうる。一方で、剪断帯などの変形が進行する領域では機械的混合による物質移動についても指摘されている(e.g. Bebout and Barton, 2002)。機械的混合では流体を介して移動しにくい元素の移動も起きるため、拡散や移流による反応帯とは異なる化学反応が予想される。したがって、含水延性剪断帯における機械的混合の影響について明らかにすることは、化学反応進行にともなうレオロジー変化を議論するうえで重要である。そこで本研究ではNatsume et al. (2025 投稿中)で研究された、海洋プレートの地殻-マントル境界に発達した含水延性剪断帯を対象として、機械的混合と流体を媒介とした元素移動について考察した。
対象の含水延性剪断帯はモホ遷移帯と呼ばれるダナイトとハンレイ岩が貫入により混ざり合った領域の岩石を原岩としており、主要な鉱物組み合わせが異なる5つの変形岩組織が確認された(Natsume et al., 2025 投稿中)。本研究では、水―岩石反応により形成された角閃石主体のAmp domain と緑泥石主体のChl domain について全岩化学組成分析を行い、原岩の全岩化学組成と比較した。流体中での移動度が比較的低いと考えられているCrとAlについてCr(ppm)-Al2O3(wt.%)図を作成したところ(cf. Bebout and Barton, 2002)、ダナイトはCrに富みAl2O3に乏しい一方で、ハンレイ岩はAl2O3に富みCrに乏しいという関係性が得られた。単純な機械的混合を仮定すると、ダナイトとハンレイ岩の組成を結ぶ線分上に全岩化学組成が分布するが、Amp domainの全岩化学組成は、その線分よりもCrとAl2O3が共に少ない領域に、Chl domainはハンレイ岩と同程度のCrかつハンレイ岩よりAl2O3が多い領域に分布した。また、Al2O3/Cr比については、Chl domainではハンレイ岩と同等かそれ以上、Amp domainではダナイトとハンレイ岩の間の値を取った。
以上の結果より、Amp domainとChl domainの形成はダナイトとハンレイ岩の単純な混合物が化学反応したものとしては説明できず、Amp domainでは機械的混合に加えて、外部からの元素の付加によるCrとAl濃度の減少、Chl domainではハンレイ岩からの元素の離脱によるAlの農集が起きていた可能性がある。本発表ではこれら分析結果を基に、含水延性剪断帯中での物質移動メカニズムについて議論する。

【引用文献】Bebout and Barton, 2002, Chemical Geology, 187,79–106. Codillo et al., 2022, Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 23, e2021GC010206.