Presentation Information
[T7-P-1]Late Holocene lake-level fluctuations reconstructed from a sediment core at the underwater archaeological site of Lake Suwa, central Japan
*Nozomi Hatano1, Fujio Kumon2, Wataru Tanigawa2,3, Naoko Hasegawa4, Takehiko Mikami5 (1. Niigata University, 2. Kochi University, 3. JAMSTEC, 4. Ochanomizu University, 5. Tokyo Metropolitan University)
Keywords:
Late Holocene,Underwater archaeological site,Sediment core,Paleosol,Lake Suwa
はじめに: 湖や盆地内の堆積物は,過去の湖水位や地下水位の変動を記録する重要な媒体である.特に,古土壌の有無やその形態は,離水・水没履歴や地下水位の変化を示す指標として有効である.中部山岳域に位置する諏訪湖では,湖底堆積物中の古土壌記録から,最終氷期末~完新世中期に水位変動が繰り返されてきたことが報告されている(Hatano et al., 2024).一方,諏訪湖流域の旧石器~縄文時代の遺跡の標高分布は,湖面変化と関連すると考えられてきた(藤森, 1965).集落立地は,湖の面積や水源からの距離といった古環境に応じて変化した可能性があるが,それを裏付ける地質学的証拠は十分に示されていない.
研究目的:本研究では,諏訪湖東岸の湖底遺跡において堆積物コアを採取し,古土壌の記載と各種分析に基づいて後期完新世の湖水位変動を復元した.さらに,既存の陸上コアや遺跡の標高分布と比較し,湖面変動の空間的広がりと集落立地との関連を考察した.
手法とコアの概要:諏訪湖東岸から約320 m湖心側,水深約2.0 m(湖底標高:約757 m)に位置する湖底遺跡(曽根遺跡)において,全長260 cmの堆積物コア(SUWASONE_241024コア)を新たに採取した.コアは半裁後,岩相・堆積構造・植物化石・古土壌構造を記載し,AMS放射性炭素年代測定,XRFによる元素分析,含水率測定,非破壊による内部構造の観察を実施した.
結果:本コアは主に有機質塊状の泥層からなり,2層に細粒砂~極細粒砂からなる正級化砂層を挟む.最深部(260 cm)の年代は約4,200 cal yrs BPで,全体の平均堆積速度は約52.6 cm/kyrである.深度250~240 cmの有機質泥層では,堆積速度が約2.4 cm/kyrと著しく低下する.この層準では,細根化石の密集,集積粘土の発達,SiO2濃度の急減,含水率の増加が認められる.泥層におけるSiO2濃度は多くの層準で60 wt.%を超え,諏訪湖に流入する上川・宮川の浮遊泥(54~57 wt.%; 葉田野, 2023)より高く,湖内の珪藻由来と考えられる.深度250~240 cmの有機質泥層でのSiO2の急減は,掘削地点が一時的に陸化し,珪藻の堆積が停滞したことを示し,約4,200~3,000 cal yrs BPに及ぶ離水期間が示唆される.一方,約3,000 cal yrs BP以降の層準では,根化石の産出が認められるが,離水の証拠となる集積粘土の発達はなく,SiO2濃度も60 wt.%以上と高く保たれる.したがって,この層準では湖水位が回復し曽根遺跡周辺は再び水没したと考えられる.この有機質泥層(湖成層)は,諏訪湖南岸から約4 km上流の陸上コア(SW2024コア)にまで追跡可能であり,当時の湖面拡大が広域に及んでいたことが示唆される.
考察:SUWASONE_241024コアにおける古土壌の存在とSiO2濃度の急減は,約4,200~3,000 cal yrs BPに及ぶ離水期間を示す.この期間は,縄文時代晩期~弥生時代前期の低地遺跡(三の丸遺跡,標高約760.4 m;南の丸遺跡,標高約760.7 m)の遺物年代と一致し(藤森, 1965),当時の湖面後退によって低地での集落形成が可能となった可能性が考えられる.その後の湖水位の回復は,流域の水収支の変化や気候変動,断層活動などが関与したと考えられる.今後は,遺物年代と絶対年代との精密な対比や,流域スケールでの堆積物の連続性や遺跡分布の統合的な解析が求められる.
文献:藤森, 1965, 地学雑誌 74, 76–94. 葉田野, 2023, 長野県環境保全研究所研究報告18, 61–71. Hatano et al., 2024, Geomorphology 455, 109194.
研究目的:本研究では,諏訪湖東岸の湖底遺跡において堆積物コアを採取し,古土壌の記載と各種分析に基づいて後期完新世の湖水位変動を復元した.さらに,既存の陸上コアや遺跡の標高分布と比較し,湖面変動の空間的広がりと集落立地との関連を考察した.
手法とコアの概要:諏訪湖東岸から約320 m湖心側,水深約2.0 m(湖底標高:約757 m)に位置する湖底遺跡(曽根遺跡)において,全長260 cmの堆積物コア(SUWASONE_241024コア)を新たに採取した.コアは半裁後,岩相・堆積構造・植物化石・古土壌構造を記載し,AMS放射性炭素年代測定,XRFによる元素分析,含水率測定,非破壊による内部構造の観察を実施した.
結果:本コアは主に有機質塊状の泥層からなり,2層に細粒砂~極細粒砂からなる正級化砂層を挟む.最深部(260 cm)の年代は約4,200 cal yrs BPで,全体の平均堆積速度は約52.6 cm/kyrである.深度250~240 cmの有機質泥層では,堆積速度が約2.4 cm/kyrと著しく低下する.この層準では,細根化石の密集,集積粘土の発達,SiO2濃度の急減,含水率の増加が認められる.泥層におけるSiO2濃度は多くの層準で60 wt.%を超え,諏訪湖に流入する上川・宮川の浮遊泥(54~57 wt.%; 葉田野, 2023)より高く,湖内の珪藻由来と考えられる.深度250~240 cmの有機質泥層でのSiO2の急減は,掘削地点が一時的に陸化し,珪藻の堆積が停滞したことを示し,約4,200~3,000 cal yrs BPに及ぶ離水期間が示唆される.一方,約3,000 cal yrs BP以降の層準では,根化石の産出が認められるが,離水の証拠となる集積粘土の発達はなく,SiO2濃度も60 wt.%以上と高く保たれる.したがって,この層準では湖水位が回復し曽根遺跡周辺は再び水没したと考えられる.この有機質泥層(湖成層)は,諏訪湖南岸から約4 km上流の陸上コア(SW2024コア)にまで追跡可能であり,当時の湖面拡大が広域に及んでいたことが示唆される.
考察:SUWASONE_241024コアにおける古土壌の存在とSiO2濃度の急減は,約4,200~3,000 cal yrs BPに及ぶ離水期間を示す.この期間は,縄文時代晩期~弥生時代前期の低地遺跡(三の丸遺跡,標高約760.4 m;南の丸遺跡,標高約760.7 m)の遺物年代と一致し(藤森, 1965),当時の湖面後退によって低地での集落形成が可能となった可能性が考えられる.その後の湖水位の回復は,流域の水収支の変化や気候変動,断層活動などが関与したと考えられる.今後は,遺物年代と絶対年代との精密な対比や,流域スケールでの堆積物の連続性や遺跡分布の統合的な解析が求められる.
文献:藤森, 1965, 地学雑誌 74, 76–94. 葉田野, 2023, 長野県環境保全研究所研究報告18, 61–71. Hatano et al., 2024, Geomorphology 455, 109194.
