Presentation Information
[T7-P-3]Rock Weathering Processes in Subtropical regions: Behavior of Rare Earth Elements in Upper Cretaceous Nago Formation Sandstone
*Seiji OSAJIMA1, Kohki YOSHIDA2, Tokia YAMAGUCHI3 (1. Graduate School of Shinshu University,Medicine, Science and Technology, 2. Faculty of Science, Shinshu University, 3. Graduate School of Shinshu University,Science and Technology)
Keywords:
Okinawa-jima,Subtropical region,rock weathering,Nago Formation,REE,Kunigami Marji
はじめに
希土類元素(以下REE)はLaからLuまでのランタノイド元素とYを含み,軽希土類元素(LREE:La~Eu)と重希土類元素(HREE:Gd~Lu,Y)に分類される.REEは異なる環境下で移動や分化など特異な挙動を示す(Ohta & Kawabe,2001など).そのため,岩石の風化状況の評価において有用と考えられる.
亜熱帯の沖縄島北部には,国頭マージと呼ばれる赤色~黄色の風化土壌が分布する.筆者らはこれまで,国頭マージの母材のうち砂岩の風化過程を,造岩鉱物の変質や風化過程に伴う鉱物組成,かさ密度や土壌硬度などの物性から整理してきた.今回,砂岩の風化過程とREE(La~Lu)の挙動を整理し,中国南部の花こう岩風化事例4件(Xiao et al.,2024など)と比較し,亜熱帯地域における岩石の風化様式を検討した.
地質概要
沖縄島北部には,四万十帯に属する上部白亜系の名護層が分布する.名護層は千枚岩,緑色岩,砂岩などからなり,その分布や名称は諸説ある(宮城ほか,2013).名護層は地表近くで赤色〜黄色の厚い風化殻を形成する.筆者らは沖縄島北部大宜味村の丘陵地で確認した強風化砂岩露頭を名護層に属すると考え研究対象とした.また,沖縄島北部各地から新鮮部・中風化部の試料を採取して風化進行過程の整理に加えた.これまでの研究では,名護層砂岩は新鮮部では石英,長石類,火山岩片,白雲母からなるが,風化に伴い長石類や火山岩片が次第に粘土鉱物へ変化し,最終的に石英のほか粘土鉱物と鉄・アルミニウム酸化(水酸化)物へと鉱物組成が変化する過程を明らかにしている.
研究手法
研究対象の露頭は比高約10mの切土斜面であり,最上部は農地造成の過程で掘削除去されている.露頭から採取した試料を用いて,物理試験,薄片顕微鏡観察,X線粉末回折,蛍光X線分析を実施している.今回,露頭から採取した5試料(上部より-0.1 m,1.3 m,4.1 m,6.5 m,10.8 m)について,ICP-AES・ICP-MSによる微量元素分析を実施した.分析はカナダ・ALSCanada Ltd.に依頼した.また,全岩化学組成は-0.1mを除く4試料について高知大学海洋コア総合研究センターで行っている.
結果
調査対象の露頭は,細粒凝灰岩の薄層を挟在する中粒砂岩からなる.最上部は赤褐色土壌であり,その直下は黄色,中部から下部は赤色が優勢となる.薄片鏡下観察では,特に10.8mで粒間を埋めるマンガン酸化物とみられる物質が顕著である.全岩化学組成(-0.1mを除く)は,Al・Fe・Tiは全深度で大きな変化はないが,Mn・Pは下部から上部へ向かって大きく減少する.全REE濃度は-0.1mで27 ppmだが,直下の1.3 mで6 ppmに急減し,その後は次第に上昇して10.8 mで40 ppmと急激に濃縮する.このうちREE全体濃度に占めるCeの割合は,-0.1m~6.5mでは34~42%であるが,10.8mでは79%と急増する.また,LREEとMn・P,HREEとZrの濃度には相関がある.コンドライトで規格化したREEパターンは,Euを頂点とするV字形を示す.Ce異常は-0.1mでは負,4.1mより深部では正となり10.8mで極端に大きくなる.
考察
LREE・HREEとMn・P・Zrの関係から,LREEはリン灰石やマンガン酸化物に,HREEはジルコンに取り込まれていると考えられる.そのため,LREEパターンの変化は風化時に不安定なリン灰石の分解が寄与している.10.8mでREE(特にCe)が濃縮するのは,マンガン酸化物に吸着されたためと考えられる.Sanematsu et al.(2013)に従うと,中国南部の花こう岩類の風化プロファイルには,全てのプロファイルで最上部に正のCe異常とLREEが枯渇するゾーン(酸化帯)があり,その下部に負のCe異常とLREEが濃縮するゾーン(還元帯)がみられる.本研究の露頭は,最上部は還元帯にあたり,その上部の掘削除去部に酸化帯が存在していたと推察される.したがって名護層砂岩の風化プロファイルは,亜熱帯地域の花こう岩類と同様の風化過程を示していると考えられる.
おわりに
本研究では亜熱帯地域の砂岩風化過程をREE挙動から特徴を明らかにした.今後は風化プロファイルの精度向上を図ることで,土壌風化度の評価に応用可能であると考えられる.
引用文献
宮城ほか,2013,地質雑,119,665–678.
Ohta & Kawabe, 2001, Geochim. Cosmochim. Acta, 65, 695–703.
Sanematsu et al. 2013, Mineralium Deposita, 48, 437–451.
Xiao et al., 2024, Appl. Clay Sci, 254, 107365.
希土類元素(以下REE)はLaからLuまでのランタノイド元素とYを含み,軽希土類元素(LREE:La~Eu)と重希土類元素(HREE:Gd~Lu,Y)に分類される.REEは異なる環境下で移動や分化など特異な挙動を示す(Ohta & Kawabe,2001など).そのため,岩石の風化状況の評価において有用と考えられる.
亜熱帯の沖縄島北部には,国頭マージと呼ばれる赤色~黄色の風化土壌が分布する.筆者らはこれまで,国頭マージの母材のうち砂岩の風化過程を,造岩鉱物の変質や風化過程に伴う鉱物組成,かさ密度や土壌硬度などの物性から整理してきた.今回,砂岩の風化過程とREE(La~Lu)の挙動を整理し,中国南部の花こう岩風化事例4件(Xiao et al.,2024など)と比較し,亜熱帯地域における岩石の風化様式を検討した.
地質概要
沖縄島北部には,四万十帯に属する上部白亜系の名護層が分布する.名護層は千枚岩,緑色岩,砂岩などからなり,その分布や名称は諸説ある(宮城ほか,2013).名護層は地表近くで赤色〜黄色の厚い風化殻を形成する.筆者らは沖縄島北部大宜味村の丘陵地で確認した強風化砂岩露頭を名護層に属すると考え研究対象とした.また,沖縄島北部各地から新鮮部・中風化部の試料を採取して風化進行過程の整理に加えた.これまでの研究では,名護層砂岩は新鮮部では石英,長石類,火山岩片,白雲母からなるが,風化に伴い長石類や火山岩片が次第に粘土鉱物へ変化し,最終的に石英のほか粘土鉱物と鉄・アルミニウム酸化(水酸化)物へと鉱物組成が変化する過程を明らかにしている.
研究手法
研究対象の露頭は比高約10mの切土斜面であり,最上部は農地造成の過程で掘削除去されている.露頭から採取した試料を用いて,物理試験,薄片顕微鏡観察,X線粉末回折,蛍光X線分析を実施している.今回,露頭から採取した5試料(上部より-0.1 m,1.3 m,4.1 m,6.5 m,10.8 m)について,ICP-AES・ICP-MSによる微量元素分析を実施した.分析はカナダ・ALSCanada Ltd.に依頼した.また,全岩化学組成は-0.1mを除く4試料について高知大学海洋コア総合研究センターで行っている.
結果
調査対象の露頭は,細粒凝灰岩の薄層を挟在する中粒砂岩からなる.最上部は赤褐色土壌であり,その直下は黄色,中部から下部は赤色が優勢となる.薄片鏡下観察では,特に10.8mで粒間を埋めるマンガン酸化物とみられる物質が顕著である.全岩化学組成(-0.1mを除く)は,Al・Fe・Tiは全深度で大きな変化はないが,Mn・Pは下部から上部へ向かって大きく減少する.全REE濃度は-0.1mで27 ppmだが,直下の1.3 mで6 ppmに急減し,その後は次第に上昇して10.8 mで40 ppmと急激に濃縮する.このうちREE全体濃度に占めるCeの割合は,-0.1m~6.5mでは34~42%であるが,10.8mでは79%と急増する.また,LREEとMn・P,HREEとZrの濃度には相関がある.コンドライトで規格化したREEパターンは,Euを頂点とするV字形を示す.Ce異常は-0.1mでは負,4.1mより深部では正となり10.8mで極端に大きくなる.
考察
LREE・HREEとMn・P・Zrの関係から,LREEはリン灰石やマンガン酸化物に,HREEはジルコンに取り込まれていると考えられる.そのため,LREEパターンの変化は風化時に不安定なリン灰石の分解が寄与している.10.8mでREE(特にCe)が濃縮するのは,マンガン酸化物に吸着されたためと考えられる.Sanematsu et al.(2013)に従うと,中国南部の花こう岩類の風化プロファイルには,全てのプロファイルで最上部に正のCe異常とLREEが枯渇するゾーン(酸化帯)があり,その下部に負のCe異常とLREEが濃縮するゾーン(還元帯)がみられる.本研究の露頭は,最上部は還元帯にあたり,その上部の掘削除去部に酸化帯が存在していたと推察される.したがって名護層砂岩の風化プロファイルは,亜熱帯地域の花こう岩類と同様の風化過程を示していると考えられる.
おわりに
本研究では亜熱帯地域の砂岩風化過程をREE挙動から特徴を明らかにした.今後は風化プロファイルの精度向上を図ることで,土壌風化度の評価に応用可能であると考えられる.
引用文献
宮城ほか,2013,地質雑,119,665–678.
Ohta & Kawabe, 2001, Geochim. Cosmochim. Acta, 65, 695–703.
Sanematsu et al. 2013, Mineralium Deposita, 48, 437–451.
Xiao et al., 2024, Appl. Clay Sci, 254, 107365.
