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[T7-P-13]Sedimentological features of the event deposits in Nachikatuura,eastern Kii Peninsula

*Dan MATSUMOTO1, Yuki SAWAI1, Yuichi NAMEGAYA1, Koichiro TANIGAWA1, Yumi SHIMADA1 (1. GSJ, AIST)
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Keywords:

Event deposits,Tsunami,,Nankai Trough,Sedimentary facies,Grain-size analysis

 南海トラフ沿岸では,海溝型巨大地震の発生に伴う津波が繰り返し襲来しており,次の巨大地震の発生が切迫している状況である.約1000年前以降の地震履歴は歴史史料の解析によりおおよそ解明されているが,それよりも古い記録については津波堆積物や地殻変動といった地質学的側面からのアプローチが重要となる.そこで本研究では,文部科学省委託事業「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」(令和2~6年度)の一環として,紀伊半島沿岸域における過去の津波履歴を解明することを目的に,紀伊半島東部に位置する和歌山県那智勝浦町の沿岸低地においてジオスライサー調査を実施した.得られた柱状試料の観察や粒度分析結果をもとに堆積相解析を行い,津波堆積物の可能性があるイベント層がみられたので,以下報告する.
調査地は那智勝浦町下里地区の海岸から約700 m程度離れた低地である.この低地は幅約50 m程度の狭い谷底に位置し,その標高は約1.5~2.5 mである.この低地の7地点において,1地点あたり2~3本(計16本;SS-1~16)のジオスライサー試料(掘削深度1.40~2.90 m)を掘削し,肉眼観察のための剥ぎ取り試料を作成するとともに,年代測定や粒度分析のための連続試料採取を行った.このうち,最も長い試料が得られたSS-16コアでは,深度2.61 m以下の泥質干潟堆積物を覆うように級化砂層が4枚累重している(深度1.40~2.61 m).各級化砂層は約15~40 cmの厚さで,下部は淘汰のよい細粒~極細粒砂からなり,平行葉理が発達する.上部は植物片を多量に含む泥質の細粒~極細粒砂からなり,巣穴状の生痕が観察されるほか,強く生物擾乱を被っているところもある.級化砂層下位の干潟堆積物から直上の級化砂層最下部にかけてと,級化砂層の下部から上部にかけて,脱出構造(escape structure)を示す生痕がみられるところがあり,脱出構造の近傍でカニの爪化石がみられる.また,級化砂層中には二枚貝や有孔虫,貝形虫,海綿骨針などが含まれており,海側からの堆積物供給が示唆される.級化構造や平行葉理,脱出構造を示す生痕からは,この級化砂層が1回もしくは複数回にわたる突発的イベントにより比較的短時間のうちに形成された可能性が示唆され,海側からの堆積物供給を考慮すると,津波や暴浪による遡上波によって形成されたと考えられる.
次に,級化砂層の形成年代を推定するために,級化砂層の上下の堆積物から葉や小枝などの植物化石を拾い出し,放射性炭素年代測定を行った.その結果,級化砂層は約5300~49000年前に形成されたことが明らかとなった.下里地区の低地から約1~2 km程度離れた那智勝浦町八尺鏡野湿地や太地町下河立湿地で実施された津波堆積物調査からも複数のイベント砂層が見つかっている(文部科学省委託事業「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」令和6年度成果報告書,2025)が,その一部は形成年代から本研究でみられた級化砂層と対比できる可能性がある.その場合,この級化砂層を形成したイベントは広域的な影響を及ぼす津波の可能性が高いと考えられる.

引用文献
文部科学省委託事業「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」令和6年度成果報告書, 398p, 2025.