Presentation Information
[T14-P-7]Middle Pleistocene turning point of volcano-tectonics of Kyushu
*Tomohiro Tsuji1 (1. Yamaguchi University)
Keywords:
Kyushu,Volcano,Tectonics,Middle Pleistocene,Turning point
日本列島では,第四紀後期,中期更新世以降に段丘化が広く認められることから,それ以前の沈降から広域的に隆起に転じたことが示唆される.このような地殻変動と火山の発達過程の関連性については十分に理解されていない.そこで本研究では,第四紀後期の島弧火山形成の発達とテクトニクスの関係を議論する目的で,九州周辺の火山活動および広域的な地殻変動の変遷をレビューする.
(1)雲仙火山地域,隆起への転換:雲仙火山の活動は1.9~1.0 Maの火山活動期,1~0.6 Maの静穏期(口之津層群最上部),0.6~0.3 Maの活動期(古期雲仙火山),それ以降の活動期に分けられる(寺井,2020). 0.6 Maの諏訪池玄武岩は標高165 m地点で浅海性堆積物である口之津層群を整合で覆っており,口之津層群堆積以降に隆起に転じたことが示唆される.また,古期雲仙の巨晶安山岩礫層(村田・辻,2023)の供給源として,寺井(2022)の塔ノ坂安山岩もしくは高岩山が挙げられ,古期雲仙火山の後期における大規模な侵食が示唆される.
(2)阿蘇カルデラ期マグマの形成と隆起への転換:阿蘇カルデラの活動は,約0.8~0.35 Maの先カルデラ期,0.27~0.09 Maの阿蘇カルデラ期,0.09 Ma~現在の後カルデラ期に分けられる.阿蘇カルデラの成因論については多くの注目を集めるが,最近,先阿蘇火山岩類最上部にAso-1溶結凝灰岩と類似する化学組成のデイサイトが報告され,阿蘇カルデラ期が始まる少し前の更新世中期にカルデラ噴火のマグマ供給系が形成され始めた可能性が指摘されている(十川ほか,2020).
先阿蘇火山岩類は津森層に覆われ,さらにそれを覆う中期更新統の下陳礫層は,先阿蘇火山岩類由来の礫を多量に含む.この礫層の成因として,大雨,度重なる洪水,海水準変動などが挙げられている(西村,1968).
(3)青野火山群の火山列の移動:東部の0.62~0.36 Maの古い形成年代を示す火山列に対して,西部の火山列は溶岩ドームの保存が良好で,0.2 Maから数万年前までの若い形成年代を示す.これは島弧火山列の移動を示しており,フィリピン海プレートの西進に伴う火山フロントの前進に起因するとされている(Furuyama et al., 2002).
(4)宮崎平野の隆起:中期更新世に隆起が顕著となり,段丘の形成が開始した(長岡,2010).
(5)琉球列島の隆起:0.95~0.41Maに琉球列島全域にわたりサンゴ礁が広がり,海水準変動に呼応してくり返しサンゴ礁複合体堆積物が形成され,0.41 Ma以降に形成されたサンゴ礁複合体堆積物は,その分布ならびに累重様式から隆起運動の影響下で形成されたと考えられている(井龍・松田,2010).この隆起運動は現在まで継続している.
(6)四国西部の隆起:愛媛県肱川沿いでは0.6 Ma以降に河成段丘が発達しており(柳田ほか,2022),この時期より隆起に転じたと考えられる.
(7)四国東部の隆起,右横ずれへの転換:中央構造線は鮮新世後期には非活動的で山地の隆起はほとんどなく,前期更新世に中央構造線沿いに逆断層運動が生じ,北側に讃岐山地,南側に盆地が形成された.中期更新世以降には逆断層運動は停止し,右横ずれ運動が生じ,今に至っている(Sangawa, 1978).
(8)関東平野の隆起: 3~1 Maの間に沈降場であったが,1~0.5 Maの間にテクトニクスの変換があり,それまでの東西性褶曲・断層の卓越から南北性正断層の卓越期を経て,0.5 Ma頃以降に,現在につづく関東地震タイプの地震性地殻変動や右ずれ活断層の卓越する場となった(貝塚,1987).
以上をまとめると,九州のみならずより広域で中期更新世に地殻変動と火山活動の転換期があったことが指摘される.その範囲・成因についてはより広域的・多角的に地殻変動とプレート運動との関係を検討する必要がある.
謝辞:本発表では,村田丈治氏の卒業論文で得られたデータの一部を使用した.記して感謝申し上げます.
引用文献:
Furuyama et a., 2002, Bull. Volcanol. Soc. Japan, 47, 481-487.
井龍・松田,2010,九州地方,149-154.
貝塚,1987,地学雑誌 96, 223-240.
村田・辻,2023,日本火山学会講演予稿集,P99
長岡,2010,九州地方,127-132.
西村,1968,熊本地学会誌,32,8-17.
Sangawa, 1978, Sci. Rep. Tohoku Univ., 28, 313-338.
寺井,2022,火山,67,319-333.
十川他,2020,EHAI-2019-2, 2-08, 84-87.
柳田他,2022,地学雑誌,131,521-544.
(1)雲仙火山地域,隆起への転換:雲仙火山の活動は1.9~1.0 Maの火山活動期,1~0.6 Maの静穏期(口之津層群最上部),0.6~0.3 Maの活動期(古期雲仙火山),それ以降の活動期に分けられる(寺井,2020). 0.6 Maの諏訪池玄武岩は標高165 m地点で浅海性堆積物である口之津層群を整合で覆っており,口之津層群堆積以降に隆起に転じたことが示唆される.また,古期雲仙の巨晶安山岩礫層(村田・辻,2023)の供給源として,寺井(2022)の塔ノ坂安山岩もしくは高岩山が挙げられ,古期雲仙火山の後期における大規模な侵食が示唆される.
(2)阿蘇カルデラ期マグマの形成と隆起への転換:阿蘇カルデラの活動は,約0.8~0.35 Maの先カルデラ期,0.27~0.09 Maの阿蘇カルデラ期,0.09 Ma~現在の後カルデラ期に分けられる.阿蘇カルデラの成因論については多くの注目を集めるが,最近,先阿蘇火山岩類最上部にAso-1溶結凝灰岩と類似する化学組成のデイサイトが報告され,阿蘇カルデラ期が始まる少し前の更新世中期にカルデラ噴火のマグマ供給系が形成され始めた可能性が指摘されている(十川ほか,2020).
先阿蘇火山岩類は津森層に覆われ,さらにそれを覆う中期更新統の下陳礫層は,先阿蘇火山岩類由来の礫を多量に含む.この礫層の成因として,大雨,度重なる洪水,海水準変動などが挙げられている(西村,1968).
(3)青野火山群の火山列の移動:東部の0.62~0.36 Maの古い形成年代を示す火山列に対して,西部の火山列は溶岩ドームの保存が良好で,0.2 Maから数万年前までの若い形成年代を示す.これは島弧火山列の移動を示しており,フィリピン海プレートの西進に伴う火山フロントの前進に起因するとされている(Furuyama et al., 2002).
(4)宮崎平野の隆起:中期更新世に隆起が顕著となり,段丘の形成が開始した(長岡,2010).
(5)琉球列島の隆起:0.95~0.41Maに琉球列島全域にわたりサンゴ礁が広がり,海水準変動に呼応してくり返しサンゴ礁複合体堆積物が形成され,0.41 Ma以降に形成されたサンゴ礁複合体堆積物は,その分布ならびに累重様式から隆起運動の影響下で形成されたと考えられている(井龍・松田,2010).この隆起運動は現在まで継続している.
(6)四国西部の隆起:愛媛県肱川沿いでは0.6 Ma以降に河成段丘が発達しており(柳田ほか,2022),この時期より隆起に転じたと考えられる.
(7)四国東部の隆起,右横ずれへの転換:中央構造線は鮮新世後期には非活動的で山地の隆起はほとんどなく,前期更新世に中央構造線沿いに逆断層運動が生じ,北側に讃岐山地,南側に盆地が形成された.中期更新世以降には逆断層運動は停止し,右横ずれ運動が生じ,今に至っている(Sangawa, 1978).
(8)関東平野の隆起: 3~1 Maの間に沈降場であったが,1~0.5 Maの間にテクトニクスの変換があり,それまでの東西性褶曲・断層の卓越から南北性正断層の卓越期を経て,0.5 Ma頃以降に,現在につづく関東地震タイプの地震性地殻変動や右ずれ活断層の卓越する場となった(貝塚,1987).
以上をまとめると,九州のみならずより広域で中期更新世に地殻変動と火山活動の転換期があったことが指摘される.その範囲・成因についてはより広域的・多角的に地殻変動とプレート運動との関係を検討する必要がある.
謝辞:本発表では,村田丈治氏の卒業論文で得られたデータの一部を使用した.記して感謝申し上げます.
引用文献:
Furuyama et a., 2002, Bull. Volcanol. Soc. Japan, 47, 481-487.
井龍・松田,2010,九州地方,149-154.
貝塚,1987,地学雑誌 96, 223-240.
村田・辻,2023,日本火山学会講演予稿集,P99
長岡,2010,九州地方,127-132.
西村,1968,熊本地学会誌,32,8-17.
Sangawa, 1978, Sci. Rep. Tohoku Univ., 28, 313-338.
寺井,2022,火山,67,319-333.
十川他,2020,EHAI-2019-2, 2-08, 84-87.
柳田他,2022,地学雑誌,131,521-544.
