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[G-P-19]A duplex structure and its implication in the Wakino subgroup at Yoshimo port Shimonoseki-city, Yamaguchi prefecture

*Kodai Kawaguchi1, Kiichiro Kawamura1 (1. Yamaguchi Univ.)
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 【研究概要】
 本研究では、山口県下関市吉母港付近の現地踏査によって、脇野亜層群最上部層から後背地傾斜型デュープレックス構造を発見した。ここでは、以下に述べるように、このデュープレックス構造から読み解ける意義について、討論したい。
 山口県に分布する脇野亜層群は、模式地である福岡県宮若市脇野付近における下部宮若層(中部層)から上部宮若層(最上位層)の岩相に概ね対比される。ただし、両者の岩相に明瞭な差異が認められることから、山口県に分布する脇野亜層群は、中上部層および最上部層と呼称される。このような明瞭な岩相の差異があることから、模式地との詳細な対比はできていない(吉富、2009)。脇野亜層群が下位の豊西層群吉母層(バランギニアン-オーテリビアン)を不整合で覆うことから、中上部層の堆積年代は、バランギニアン後期から始まると推測されており、岩相や層厚からオーテリビアンに及ぶ可能性が指摘されている(西村ほか、2012)。また、脇野亜層群最上部層から産出した化石に基づくと、その堆積年代は、アプチアンに及ぶことが推測されている(西村ほか、2012)。このように、中-粗粒石英質砂岩と細粒石灰質砂岩の互層を主体とする中上部層と暗-黒色泥岩と細-中粒砂岩の互層を主体とする最上部層で堆積年代と岩相とに大きなギャップがあり、この解釈は未だになされていない。そこで、私たちは、山口県に分布する脇野亜層群の詳細な地質調査に基づいて、層序における未解明な点を検討した。その地質調査において、デュープレックス構造を中上部層と最上部層の境界部で見つけた。
 当該構造を境に、上位には砂岩・泥岩の互層および礫岩からなる浅海相が、下位には灰色の砂岩・泥岩および赤色泥岩の深海相が分布している。下位はほぼ非変形であるのに対し、上位の浅海相の細粒堆積岩には斜交葉理のような構造が観察される。これは、おそらく著しく変形したリーデル剪断面であると推測される。この剪断面の平均は、N14°E, 4.6°Wである。この剪断面は、より上位層内部で東から西への剪断変形が生じたためであると推測している。
 また、両者の境界は断層によって境されており、そこにデュープレックス構造が観察される。この構造には、5つ以上のホースが観察され、明瞭な断層によって囲われている。デュープレックス構造のフロアー・スラストは明瞭に観察されるが、ルーフ・スラストが不明瞭であるが、筆者らはデュープレックス構造と判断している。この観察結果を踏まえると、本構造が後背地傾斜型デュープレックス構造の特徴を有する可能性があり、今後はルーフ・スラストおよびフロアー・スラストの特定・追跡を通じた構造全体の解明が重要な課題となる。なお、本構造内のホースには少なくとも2つの後生的断層が確認されており、両衝上断層の位置づけについても慎重な検討が必要である。全体的な構造に基づくと、このデュープレックス構造は、上位の浅海相が東から西へ移動することによって形成された、すなわち西フェルゲンツと判断できる。
 以上の結果を踏まえると、この一連の地層の積み重なりは、以下のように形成されたと推測できる。まず、下位の深海相が堆積、定置し、次に、上位の浅海相が積み重なるのであるが、筆者らはこの積み重なり方が海底地すべりによって引き起こされたものであると現時点では考えている。すなわち、上位の浅海相が海底地すべり堆積体として、東から西へ滑り落ちてきて、深海相の堆積体の上位に定置した。このとき、停止する直前に、すべり面にデュープレックス構造が形成され、なおかつ、海底地すべり体内部にリーデル剪断面が発達したのではないかと考えている。
 このように、今回発見したデュープレックス構造の詳細な検討は、脇野亜層群最上部の層序的再評価や堆積年代を検討するにあたって重要であり、その地質学的・地史学的意義は極めて大きい。

【文献】
西村祐二郎、今岡照喜、金折裕二、亀谷敦,2012,山口県地質図第3版(15万分の1)および同説明書.山口地学会,167p.
日本地質学会, 2009, 日本地方地質誌 中国地方. 吉富健一執筆箇所 朝倉書店, p102-103.