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[G-P-28]Distribution and controlling factors of deep-sea benthic foraminifera around the axis of the southern Okinawa Trough

*Chika ONAI1, Koji KAMEO1, Daisuke KUWANO2, Makoto OTSUBO3, Masataka KINOSHITA4, KH-23-11 shipboard scientists (1. Chiba Univ., 2. Kyoto Univ., 3. Geological Survey of Japan, AIST, 4. ERI, The University of Tokyo)
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Keywords:

Benthic foraminifera,Okinawa Trough,East China Sea,Deep sea

 深海域における底生有孔虫の分布や種組成は,海洋表層からの有機物フラックスと海底付近の溶存酸素濃度に応じて変化することから(Jorissen et al., 1995),過去の海洋における相対的な一次生産量や底層水の溶存酸素量を推定する手法として,底生有孔虫化石の群集解析が用いられる(Jorissen et al., 2007).本邦から産出する化石群集を用いて過去の海洋変動を復元するためには,まず現生群集の深海域における地理分布や生態の把握が不可欠である.しかし本邦周辺では,深海生底生有孔虫の地理分布とそれを規制する環境因子に関する検討は限られている.そこで本研究は,本邦周辺海域における底生有孔虫の地理分布と,その支配要因を解明することを目的として,特に本邦周辺の南限にあたる南部沖縄トラフ海域において,底生有孔虫の現生群集の種組成と種分布,およびそれらの規制要因について検討した.
本研究では,KH-23-11次研究航海において,南部沖縄トラフ中軸上の3地点とその北側および南側にそれぞれ1地点の,計5地点(1572–2268 m)で採取されたマルチプルコアを使用した.マルチプルコアの最上部10 cmについて,1 cmごとに一定体積(37.4 ㎤)を検鏡し,生体染色によって底生有孔虫の現生群集(>63 μm)の地理分布と堆積物中での鉛直分布を明らかにした.
その結果,5地点の上部10 cmから73–393個体の生体が産出し,石灰質種44属89種,膠着質種33属76種,管状膠着質種5属8種の計85属173種を同定した.堆積物最表層の0–2 cmには管状膠着質種とReophax属,2 cm以深の亜表層には,Protoglobobulimina ovataGlobobulimina属,Chilostomella oolinaといった,汎世界的に分布する分類群が優占していた.堆積物の深さ10 cm近くまで染色個体が認められたことから,直近で大きな擾乱はなく,溶存酸素や餌となる有機物が堆積物深くまで供給されていると推定される.また,中軸の北側の地点で最も石灰質種および膠着質種の個体数が多く,加えて管状膠着質種の破片数も多産した.一方で,水深が最も深い中軸上の地点で産出個体数が少なかった.得られた現生群集について,クラスター分析によるタクサ間での比較を行ったところ,同じクラスター内のタクサは生態学的特徴が類似しており,クラスター分析の結果は各種の生態学的特徴を反映していると考えられる.
本検討海域は,水深1000 m以深で水温,塩分,溶存酸素量がほぼ一定であることから(日本海洋データセンター),検討した5地点はいずれも,水温,塩分,溶存酸素に大きな差はないと考えられる.ここで,海洋表層から海底に到達する有機物量は水深ともに減少することから,各地点における産出量や種構成の違いは,水深や堆積場の違いに起因する,有機物の量や質の違いが主要因と考えられる.特に,最も産出個体数が多かった中軸北側の地点では,懸濁物食の管状膠着質種,やや分解の進んだ有機物を利用できるReophax scorpiurs,さらに堆積物深部に棲むProtoglobobulimina ovataGlobobulimina属,Chilostomella oolinaが多産することから,採取地点近辺の蛇行チャネルないしは海底谷を通じ,東シナ海大陸棚起源の有機物が再堆積していることが示唆される.一方で,海洋表層起源の有機物は水深とともに分解されることから,最も水深の深い地点では,海底に到達する有機物量が他地点より少ないために,産出個体数も少なくなると推定される.よって,特に本邦周辺のような陸からあまり離れていない深海域の底生有孔虫の化石群集は,海洋表層起源だけではなく,浅海起源の有機物の影響を受けている可能性があることに留意が必要であると考えられる.

参考文献:
Jorissen et al., 1995, Marine micropaleontology, 26, 3–15.
Jorissen et al., 2007, Developments in Marine Geology, 1, 263–325.
日本海洋データセンター (Japan Oceanographic Data Center : JODC) , 各層データ(採水器、STD、CTD、BT), 海洋観測データ, JODCオンラインデータ提供システム(J–DOSS)