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[G-P-30]Mollusks shells from the marine stratum of the Komatsushima Municipal Grand Site: Paleoenvironments and AMS 14C ages.

*Ken-ichi NAKAO1, Ken-ichi NISHIYAMA2 (1. Tokushima Prefectural Museum, 2. Faculty of Science and Technology Tokushima University)
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Keywords:

Ancient Eras,Mollusc assemblage

 小松島市営グランド遺跡は,徳島県小松島市中田町,徳島市との境界に位置する芝山の南東麓に位置している遺跡である.小松島教育委員会が行った第2期発掘調査(2021〜2022年)では,標高約 -2.2 mの深度に基盤の三波川結晶片岩(泥質片岩)があり,それを直接覆う層厚約90cmの貝殻含有層が認められた.その上位はおもに泥質堆積物であり,考古学的な遺物の産出はあったが,海生の貝殻など積極的に海成層であることを示す証拠は見られなかった(小松島市教育委員会から提供された土層柱状図およびグリッド配置図による).
この基盤直上の貝殻含有層から,大量の貝類遺骸やキクメイシモドキ類(造礁性サンゴ)など海生動物の遺骸が得られていた.貝殻含有層の断面には,自然な層理が見られることや,両殼そろった二枚貝が多く含まれること,ヒラフネガイErgaea walshi(ヤドカリが使った貝殻の内側に付着する扁平な巻貝)やキリオレ類“Viriola” sp.(微小貝)など食用や装飾用には不向きな貝も多産することから,貝塚のような人為的に貝殻が放棄されてできた貝殻層ではなく,自然な状態で海底に堆積した海成層である.
遺跡の年代は,縄文時代から近世にわたる.第2期の調査区の一部が海だった最後の時代は,貝殻が付着した須恵器長頸壺により奈良時代(8世紀)と考えられている(同教育委員会文化財専門員の岡本和彦氏による私信).それらを踏まえ,貝化石の分析と古環境・古生態的考察を行った(西山ほか,2023).

1)貝殻の産出層準
貝殻の産出層準は記録されていなかったが,岡本氏の聞き取りおよび提供を受けた発掘時の写真から,チリボタンSpondylus cruentusとミルクイTresus keenaeは基盤岩の直上から,イセシラガイAnodontia stearnsianaは貝類産出層の最上部から多産したとの情報を得た.また,チリボタンは岩礁に直接セメント質で付着して生息するので,基盤岩が沈水した直後に生息したと考えられる.一方,イセシラガイは泥質な堆積物に潜って生息する二枚貝だが,生貝の観察例は少なく,どの程度深く潜るのかはわかってはいない.少なくとも貝殻産出層準の数10 cm上位に生活面があったと推察できるので,海成層の最上面もイセシラガイ産出層準の数10cm上位にあると考えられる.

2)貝類群の組成および古環境
産出した7240個体以上の貝類を検討し,巻貝53種,掘足類1種,二枚貝51種を確認した.オオヘビガイThylacodes adamsiiやチリボタンなど潮間帯〜潮下帯の岩礁に生息する種およびヒメシラトリMacoma incongruaやアサリRuditapes philippinarum,イセシラガイなど潮間帯〜潮下帯上部の砂泥底に生息する種が多かったが,岩礁の潮上帯に生息するタマキビLittorina brevicula,淡水種であるマシジミCorbicula leanaやオオタニシCipangopaludina japonicaも少数みられた.また,現在の小松島市周辺には生息していないだろうと考えられる温暖種が複数見られた.徳島県の海岸の貝類分布の情報を詳細に記録した河野(2025)を参照し,チリボタン,ケマンガイGafrarium divaricatum,キクザルChama japonica,コベルトカニモリCerithium dialeucumの少なくとも4種がこれに該当することがわかった.これら温暖種の存在から,貝殻含有層堆積当時の小松島市周辺には,現在よりやや高い水温の海水が流入していた可能性がある.しかし,想定される遺跡の年代である奈良時代前後の海水温が現在より全国的に高かったとは考えにくいので,局地的・一時的な現象と考えられる.

本講演では,これらの貝類群の分析に加え,西山ほか(2023)の公表後に得られたチリボタンとイセシラガイのAMS 14C 年代と併せてこの遺跡周辺における古環境的・ネオテクトニクス的意義を考察する.
文献:河野圭典,2025,徳島県の海岸軟体動物.徳島県の海岸調査,265-374,徳島県自然保護協会.
西山賢一ほか, 2023,小松島市の地質と地形.阿波学会紀要,64,小松島市総合学術調査:1-10.