Presentation Information
[O2-15]A case of restoring vertical occlusion by removable dental prosthesis resulting in recovery of masticatory dysfunction
*Koji Takano1, Yoshiteru Furuya1, Asako Suzuki1, Masayasu Ito1, Yasuhiko Kawai1 (1. Nihon University School of Dentistry at Matsudo Department of Removable Prosthodontics and Geriatric Oral Health)
【緒言】
8020運動の推進が始まり36年が経過している現在,達成率は51.6%となり残存歯数は増加している.MIの概念より抜歯を避けた結果,歯周疾患罹患歯や咬合を支持しない歯の保存によりEichner C1のすれ違い咬合に陥り咀嚼機能がむしろ低下している症例にしばしば遭遇する.この咀嚼障害は咬合支持消失による咬合高径低下,咬合平面不整,対向顎堤の異常吸収,下顎位の不安定化に起因する1).
本症例では,義歯非装着状態のEichner B1に対する補綴治療介入として,う蝕,歯周疾患罹患歯,咬合支持に関与のない残存歯を積極的に抜歯することでEichner C1への移行を回避した.また,治療用義歯装着により咬合支持の回復と水平的顎位の誘導を行ったことで早期に咀嚼障害を改善したので報告する.
【症例の概要・治療内容】
78歳の男性.食事困難を主訴として来院.口腔内所見は右下1〜4,左下1〜6,右上2〜7,左上2〜7 残存のEichner B1であり,上顎臼歯部の挺出により咬合平面は乱れ補綴間隙は不足していた.上顎両側臼歯部は抜歯適応であり,Eichner C1に移行することが予測された.以上より,右下765 左下7 右上1 左上1 欠損による咀嚼障害と診断した.
欠損部顎堤の受圧因子を考慮し抜歯部位の選定を行うことで義歯の設計を単純化し,また,治療用義歯装着により咀嚼障害を早期に改善する治療方針とした.抜歯部位は上顎全歯,左下6 とし,治療用義歯の設計は咬合力の配分を考慮し上顎は総義歯,下顎は両側遊離端義歯の設計とした.抜歯後口腔内はEichner C1を回避し,C2に移行した.
抜歯窩治癒後,上顎は治療用義歯を利用しダイナミック印象にて,下顎は個人トレーを使用した選択的加圧印象により最終補綴装置を製作した.
【経過ならびに考察】
残存歯の多数歯抜歯は侵襲が大きいように捉えられがちだが,すれ違い咬合を回避したことにより,床下粘膜の疼痛や義歯の回転,床破折を生じることなく早期に咀嚼障害を改善できた.
本症例では『歯を保存する』というゴールに留まらず,補綴装置の安定や予後を見極めて残存歯の保存の診断や義歯の設計を考慮することで『痛みなくしっかり噛める』という咀嚼機能の改善というゴールに導くことができたと考える.
【参考文献】
1) 大久保力廣.すれ違い咬合の問題点とその対応.日補綴会誌2023; 15: 427-433.
8020運動の推進が始まり36年が経過している現在,達成率は51.6%となり残存歯数は増加している.MIの概念より抜歯を避けた結果,歯周疾患罹患歯や咬合を支持しない歯の保存によりEichner C1のすれ違い咬合に陥り咀嚼機能がむしろ低下している症例にしばしば遭遇する.この咀嚼障害は咬合支持消失による咬合高径低下,咬合平面不整,対向顎堤の異常吸収,下顎位の不安定化に起因する1).
本症例では,義歯非装着状態のEichner B1に対する補綴治療介入として,う蝕,歯周疾患罹患歯,咬合支持に関与のない残存歯を積極的に抜歯することでEichner C1への移行を回避した.また,治療用義歯装着により咬合支持の回復と水平的顎位の誘導を行ったことで早期に咀嚼障害を改善したので報告する.
【症例の概要・治療内容】
78歳の男性.食事困難を主訴として来院.口腔内所見は右下1〜4,左下1〜6,右上2〜7,左上2〜7 残存のEichner B1であり,上顎臼歯部の挺出により咬合平面は乱れ補綴間隙は不足していた.上顎両側臼歯部は抜歯適応であり,Eichner C1に移行することが予測された.以上より,右下765 左下7 右上1 左上1 欠損による咀嚼障害と診断した.
欠損部顎堤の受圧因子を考慮し抜歯部位の選定を行うことで義歯の設計を単純化し,また,治療用義歯装着により咀嚼障害を早期に改善する治療方針とした.抜歯部位は上顎全歯,左下6 とし,治療用義歯の設計は咬合力の配分を考慮し上顎は総義歯,下顎は両側遊離端義歯の設計とした.抜歯後口腔内はEichner C1を回避し,C2に移行した.
抜歯窩治癒後,上顎は治療用義歯を利用しダイナミック印象にて,下顎は個人トレーを使用した選択的加圧印象により最終補綴装置を製作した.
【経過ならびに考察】
残存歯の多数歯抜歯は侵襲が大きいように捉えられがちだが,すれ違い咬合を回避したことにより,床下粘膜の疼痛や義歯の回転,床破折を生じることなく早期に咀嚼障害を改善できた.
本症例では『歯を保存する』というゴールに留まらず,補綴装置の安定や予後を見極めて残存歯の保存の診断や義歯の設計を考慮することで『痛みなくしっかり噛める』という咀嚼機能の改善というゴールに導くことができたと考える.
【参考文献】
1) 大久保力廣.すれ違い咬合の問題点とその対応.日補綴会誌2023; 15: 427-433.