Presentation Information
[P-161]A Case of Functional Recovery through Mouth Opening Training in a Patient with Facial Nerve Paralysis and Trismus after Parotid Cancer Resection Surgery
*Miki Hoshi1, Nobuko Shimazaki1, Akihiro Fukutoku1, Hiroaki Satoh2, Keito Sasaki1, Shoko Chiba1, Atsuo Nakanishi1, Yuki Hachinohe1, kazuhiro Kon1 (1. Division of Fixed Prosthodontics and Oral Implantology, Department of Prosthodontics, Iwate Medical University, 2. Division of Removable Prosthodontics and Oral Rehabilitation Department of Prosthodontics School of Dentistry Iwate Medical University)
【緒言】
耳下腺癌は頭頸部悪性腫瘍の中で5%以下と比較的稀な疾患である.手術の合併症には顔面神経麻痺,唾液瘻,Frey症候群等が知られているが,腫瘍摘出後の機能回復に関する知見は十分に確立されておらず,具体的な治療方針に困難を伴うことも少なくない.本例では,耳下腺癌の切除術後に顔面神経麻痺と開口障害を生じた患者に対し,開口訓練および上下部分床義歯の装着により機能回復を図った症例を経験したので報告する.
【症例の概要・治療内容】
患者は63歳女性.左側顎下部の腫脹と疼痛を主訴に2021年9月に近医を受診し,翌月に精密検査のため岩手医科大学頭頸部外科を紹介受診した.生検の結果は,耳下腺リンパ上皮癌(T3N2bM0)であった.同年11月に左側耳下腺全摘,頸部郭清,顔面神経切除,遊離神経移植術が施行された.手術時に腫瘍が顎関節包にも浸潤していたため関節包と下顎骨頭を切除した.術後は顔面神経本幹と末梢枝の切除に起因する術後性顔面神経麻痺が生じ,麻痺性兎眼,鼻唇溝の消失,口唇閉鎖不全が認められた.さらに下顎骨頭の切除による開口障害が生じた.口腔内所見では,Eichner分類はB-3,習慣性咬合位には著明な変化は認められなかった.術後放射線照射が終了した2022年2月より言語聴覚士によるゴム製開口器を用いた開口訓練と口唇・舌のマッサージ訓練を開始した.術直後の前歯部での開口量10㎜が15㎜まで改善し,個人トレーの挿入が可能となったため同年5月に欠損補綴のため本学義歯外来を紹介受診した.
【経過ならびに考察】
開口訓練と口唇・舌のマッサージ訓練を継続しながら上下部分床義歯を製作した.義歯試適時には口唇閉鎖および嚥下が可能であり,口唇からの水漏れがないことを確認した後に義歯装着を行った.義歯装着後6か月で実施した機能評価では良好な結果が確認され,現在の開口量は20㎜まで改善し,患者の高い満足度が得られた.今回,開口訓練の励行と補綴装置の装着が,耳下腺癌術後患者のQOL維持および向上に寄与したと考えられた.本症例を通じて,術後の口腔リハビリテーションにおける早期介入の重要性が示唆された.今後は継続的なメインテナンスと機能評価を行う予定である.(発表に際し患者の同意を得た.)
耳下腺癌は頭頸部悪性腫瘍の中で5%以下と比較的稀な疾患である.手術の合併症には顔面神経麻痺,唾液瘻,Frey症候群等が知られているが,腫瘍摘出後の機能回復に関する知見は十分に確立されておらず,具体的な治療方針に困難を伴うことも少なくない.本例では,耳下腺癌の切除術後に顔面神経麻痺と開口障害を生じた患者に対し,開口訓練および上下部分床義歯の装着により機能回復を図った症例を経験したので報告する.
【症例の概要・治療内容】
患者は63歳女性.左側顎下部の腫脹と疼痛を主訴に2021年9月に近医を受診し,翌月に精密検査のため岩手医科大学頭頸部外科を紹介受診した.生検の結果は,耳下腺リンパ上皮癌(T3N2bM0)であった.同年11月に左側耳下腺全摘,頸部郭清,顔面神経切除,遊離神経移植術が施行された.手術時に腫瘍が顎関節包にも浸潤していたため関節包と下顎骨頭を切除した.術後は顔面神経本幹と末梢枝の切除に起因する術後性顔面神経麻痺が生じ,麻痺性兎眼,鼻唇溝の消失,口唇閉鎖不全が認められた.さらに下顎骨頭の切除による開口障害が生じた.口腔内所見では,Eichner分類はB-3,習慣性咬合位には著明な変化は認められなかった.術後放射線照射が終了した2022年2月より言語聴覚士によるゴム製開口器を用いた開口訓練と口唇・舌のマッサージ訓練を開始した.術直後の前歯部での開口量10㎜が15㎜まで改善し,個人トレーの挿入が可能となったため同年5月に欠損補綴のため本学義歯外来を紹介受診した.
【経過ならびに考察】
開口訓練と口唇・舌のマッサージ訓練を継続しながら上下部分床義歯を製作した.義歯試適時には口唇閉鎖および嚥下が可能であり,口唇からの水漏れがないことを確認した後に義歯装着を行った.義歯装着後6か月で実施した機能評価では良好な結果が確認され,現在の開口量は20㎜まで改善し,患者の高い満足度が得られた.今回,開口訓練の励行と補綴装置の装着が,耳下腺癌術後患者のQOL維持および向上に寄与したと考えられた.本症例を通じて,術後の口腔リハビリテーションにおける早期介入の重要性が示唆された.今後は継続的なメインテナンスと機能評価を行う予定である.(発表に際し患者の同意を得た.)