The 130th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 130th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 14 - Sep 17, 2022Tokyo University Of Agriculture
The Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science
The 130th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 130th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 14 - Sep 17, 2022Tokyo University Of Agriculture

[CPS-03]新規動物資源エゾシカとエミューの産業化と研究支援

*Kousaku Souma1(1. Tokyo University of Agriculture)
1. 新規動物資源による地域振興
 近年、野生鳥獣やダチョウをはじめとする新規動物資源の肉に接する機会が増えてきた。野生鳥獣の活用は、農林業被害対策の一環として駆除された個体の処理対策として、廃棄から有効活用へ発想転換したものであり、新規動物資源の生産は食や畜産物の多様化が背景となっている。どちらも地域の特産物となり得る資質を有していたことから、地域振興の一端を担うまでになっている。その先陣を切り、我が国の食料生産の要となっている北海道は、様々な「食」としての取り組みが実践されている。

2.北海道における新規動物資源の活用
 (1) エゾシカの活用
 北海道の主な野生鳥獣の活用はエゾシカである。これまで、エゾシカによる農林業被害対策は主として銃捕獲による個体数調整であったが、2015年から鹿肉を中心とした有効活用に舵が切られた。しかし、当時の鹿肉の評価は低く、食肉処理過程の工夫と鹿肉の活用方法の提案が必要であった。このため、北海道は鹿肉の普及へ向けた活動と共に、有効活用や衛生処理方法のマニュアルを策定し、銃捕獲による駆除個体の活用だけでなく、生体捕獲した後に短期飼育による鹿肉生産(一時養鹿)という新たな事業に取り組んだ。一時養鹿事業は一定品質の鹿肉生産が可能となった。これにより、エゾシカ肉の評価が高まり、現在では銃捕獲による鹿肉を含め、首都圏を中心に需要が高まり、北海道内のスーパーでも取り扱われるまでになっている。
(2) エミューの生産
 新規動物資源の生産について、全国的にダチョウの生産が先行していた。しかし、東京農業大学北海道オホーツクキャンパスが所在する網走市において、民間の牧場を中心に置いた産官学によるエミューの生産事業が始まると、全国的に注目されるようになった。エミューはダチョウに次ぐ大きさの走鳥類であり、原産国はオーストラリアである。生産物は肉や卵などダチョウに準じるが、一番の大きな特徴は脂肪の生産である。エミューの脂肪から得られるエミューオイルは、アボリジニの治療薬として経験的に活用されていたが、近年の研究では鎮痛作用や美肌効果などの特徴を有していることが判明し、高い評価を得ている。また、地場の未利用資源活用など飼育しやすいことや愛玩性が評価され、地域振興としてエミュー牧場が各地で開設されるようになった。

3. 東京農業大学の研究支援
 エゾシカの有効活用やエミューの生産について、東京農業大学北海道オホーツクキャンパスの研究施設が有効に活用されてきた。また、事業を実施している団体との共同研究を通じ、実規模の研究も進めてきた。いずれも、学部の基本理念(生産-加工-流通)を生かした学科横断的な取り組みとして支援を進めることにより、一定の評価が得られたと考えている。
エゾシカの有効活用に関する研究支援は、北海道が取り組んでいる一時養鹿事業に関連し、飼育方法や給餌飼料による鹿肉成分の影響、他団体との加工品開発の橋渡しなど、学部の特色を生かした支援を通じ、エゾシカ肉を中心とした生産物の有効活用に貢献してきたと考えている。一方、エミューの生産については、増殖や飼育の方法、加工品開発、流通に至る一連の流れを整理し、一つのパッケージを提示することができたと考えている。これらの取り組みは学生教育にも取り入れられ、地域の方々との協働による研究支援などにもつながっていると感じている。

4.さいごに
 新規動物資源はマイナーな存在であることから、大学など単機関で取り組むことが多い。このため、結果を出すまでに1年以上を要することに対し、生産者目線からは速度感があるとは言い難い状況である。また、現在のエゾシカの一時養鹿事業は素ジカの確保と、より多くの生産物の活用など、見直しの時期に来ていると考える。エミューについても国内初の高病原性鳥インフルエンザによる全羽殺処分という悲報があった。これらの対応について相談を受ける都度、新規動物資源は地域振興としての取り組みやすさがある反面、消費者目線では「食材が継続的に提供されるのか」といった不安があることを再認識している。一過性ではなく、「安全」「安心」を担保とする既存の畜産と同じ感覚で取り組んでいるのか、新規動物資源の活用について多方面から見直す必要があると考える。

【略歴】
1993年 東京農業大学生物産業学部生物生産学科卒業.1998年 東京農業大学大学院博士後期課程修了.1998年 北海道技術吏員(農業改良普及員).2005年 東京農業大学生物生産学科(2018年 北方圏農学科に改称)講師を経て2015年 教授.2021年から東京農業大学網走寒冷地農場 農場長.