The 130th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 130th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 14 - Sep 17, 2022Tokyo University Of Agriculture
The Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science
The 130th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 130th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 14 - Sep 17, 2022Tokyo University Of Agriculture

[CPS-05]野生ウシ・ボルネオバンテンは実在するのか?

*Hisashi MATSUBAYASHI1(1. Tokyo University of Agriculture)
東南アジアにはバンテン(Bos javanicus)という野生ウシが生息している.四肢と臀部,口唇は白く,体色は地域により異なり,概して大陸部のオスは茶色に対し島嶼部のオスは黒色,メスは大陸部・島嶼部共に茶色,オスはメスに比べて筋肉質で角も体サイズも大きい.本種は,分布域によって大陸のビルマバンテン,ジャワ島・バリ島のジャワバンテン,そしてボルネオ島のボルネオバンテンの3亜種に分類される.生息地の乱開発や乱獲により絶滅の危機に瀕しており,近年,各地でバンテンの保全策が進められているが,ボルネオバンテンについては,家畜ウシとの交雑疑惑があり対策が遅れていた.また,3亜種の中で唯一ボルネオバンテンは,飼育個体がおらず染色体数も不明で情報が著しく少ない.そこで我々は,ボルネオバンテンの生息状況の実態把握ならびに交雑の有無を検証するために,ボルネオ島・マレーシア・サバ州において,広域での自動撮影カメラ調査に加え,糞ならびに頭骨に残された歯髄由来のミトコンドリアDNA解析を行った.その結果,自動撮影カメラ調査からは,木材の切り出しを行う商業林3カ所において幼獣を伴う集団を見出し,孤立した繁殖集団が残存していることが分かった.糞由来のミトコンドリアDNA内の2つの領域の各一部配列ならびに歯髄由来のミトコンドリアDNA全長配列の結果からは,家畜ウシとの交雑は確認されなかった.さらに,ボルネオバンテンはバンテンの他の2亜種よりも,別種の野生ウシ・ガウル(Bos gaurus)に近縁であるということが判明した.これらの結果から,ボルネオバンテンの保全価値を示し,新たに見出した繁殖集団を用いた飼育繁殖プロジェクトを実現すること,核ゲノムDNAも対象として分類そのものを再検討することの必要性を示した.本発表では,ボルネオバンテンを取り巻く状況,これまでの経緯,そして今後の展望について紹介する.


【略歴】宮城県石巻市生まれ.東松島市育ち.子供の頃愛読した動物雑誌『アニマ』(平凡社)の影響を受け,熱帯雨林での野生動物研究に憧れを抱く.学部(家畜生理),大学院修士課程(分子進化)では分子生物学の道へ踏み入るも,沿岸小型捕鯨生物調査での経験がきっかけで熱帯雨林への思いが再燃.大学院博士課程1年の1997年,はじめてマレーシアの熱帯雨林へ.それ以来,博士課程5年,ポスドク8年,マレーシア・サバ大学の教員3年,そして東京農業大学の教員として,ボルネオ熱帯雨林で野生動物の生態や生息地保全に関する研究を実施・継続中.