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[O20-5]下部進行直腸癌に対する側方リンパ節郭清の治療成績および側方リンパ節郭清省略例に関する後方視的検討

岡本 行平, 藤野 紘貴, 豊田 真帆, 秋山 有史, 伊東 竜哉, 小川 宰司, 奥谷 浩一, 今村 将史 (札幌医科大学外科学講座消化器外科分野)
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【背景】
下部直腸癌に対する側方リンパ節郭清(LLND)は、日本においては局所制御を目的とした標準治療の一つとされている。一方、手術侵襲や機能障害の懸念から、近年では術前画像所見に基づく選択的LLNDの有用性が注目されている。
【目的】
当院における下部進行直腸癌に対するLLND施行例と非施行例の治療成績を後方視的に検討し、画像所見に基づく選択的LLNDの妥当性を検討する。
【方法】
2020年1月から2024年12月にcT3以深の下部直腸癌に対して根治術を施行した97例を対象とし、LLND施行群(58例)と非施行群(39例)に分け、手術時間、出血量、術後合併症、側方リンパ節(LLN)転移、局所再発率を比較した。LLND省略基準は治療開始前の術前画像でLLN短径が5mm未満かつ血管外腫瘍進展(EMVI)が陰性とした。
【結果】
術前治療は85例(NAC:61、CRT:19、TNT:5)、治療なしは12例で、全てLLND非施行群であった。LLND施行群の手術時間中央値は640分(412−1012分)、出血量30 mL(5−640ml)、Grade III以上の術後合併症は9例(15.5%)に認めた。術前にLLN転移陽性と診断されたのは12例、病理学的転移陽性は6例(10.3%)で、うち2例は画像で陰性だったがEMVI陽性によりLLNDを施行していた。観察期間中央値は37ヶ月(4−60ヶ月)、局所再発は5例(8.6%)であった。非施行群では手術時間中央値313分(214−673分)、出血量15 mL(5−335ml)、Grade III以上の合併症は2例(5.1%)、局所再発2例(5.1%)で、側方再発は1例であった。
【考察】
LLNDは一定の手術侵襲を伴うが、LLN転移陽性例が存在し、局所制御に寄与すると可能性が示唆された。また、LLN 転移陽性例の中には、リンパ節短径5mm未満であってもEMVI陽性の症例が含まれおり、EMVIがLLND適応を判断する上での予測因子となり得ると考えられた。一方、短径5mm未満かつEMVI陰性でLLNDを省略した症例では側方再発は少なく、画像に基づく選択的LLNDの妥当性が示唆された。
【結語】
術前画像所見に基づいたLLND省略は、局所制御を維持しつつ低侵襲化を図る治療戦略として有効である可能性が示唆された。