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[R16-5]早期梅毒性肝炎を合併した早期梅毒に対してベンジルペニシリンベンザチン水和物が有用であった1例

田中 香織1, 森 俊治1, 山田 英貴2 (1.森外科医院, 2.山田外科内科)
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症例は28歳女性。約2週間前より排便時出血と肛門痛が出現し、同時に会陰部、前胸部、両前腕に淡赤色の発疹が出現したため当院受診した。肛門診察では12時に腫大した皮膚垂と5時、7時、12時の3カ所に硬結を有する幅広い潰瘍病変(硬性下疳)を認めた。両側鼠径部リンパ節腫大あり。血液検査では炎症反応上昇、肝胆道系酵素上昇を認め、梅毒検査(RPR、TPHA)が陽性であった。病歴を再度詳細に聴取したところ、1年前にマッチングアプリで知り合った男性との肛門性交歴が判明した。腹部エコーでは軽度肝腫大、軽度脾腫、胆嚢萎縮を認めた。S状結腸内視鏡検査ではS状結腸に5~10mmのやや隆起した扁平紅斑が多発していた。早期梅毒第2期および早期梅毒性肝炎と診断したが、1ヶ月半前より頭痛、耳鳴り、三叉神経痛が出現しており、1週間前からは38℃台の熱発を認めていたことより、早期神経梅毒を疑い、髄液検査を施行した。髄液検査では細胞数および髄液蛋白ともに正常であったため、神経梅毒の可能性は低いと判断し、ベンジルペニシリンベンザチン水和物(BPB)を240万単位筋注した。筋注後はすぐに解熱し、1週間後には頭痛や三叉神経痛も消失した。硬性下疳、皮疹、肝胆道系障害も徐々に改善傾向を示し、治療1ヶ月後にはRPR、TPHAともに治療前値の2分の1まで低下した。梅毒治療には長らくペニシリン長期内服が選択されてきたが、2022年1月よりBPB単回筋注が本邦で使用可能となった。BPB筋注は1回の筋注で治療終了となるため簡便で使用しやすいが、神経梅毒には適応がないため、神経梅毒との鑑別が必要である。今回われわれは神経梅毒との鑑別を要し、BPB筋注が有用であった早期梅毒性肝炎の1例を経験したので、文献的考察も加えて報告する。