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[SY13]シンポジウム13_新規治療はどのように生まれるか 基礎・臨床・テクノロジーの融合と発展

Thu. Jun 19, 2025 6:00 PM - 8:00 PM JST
Thu. Jun 19, 2025 9:00 AM - 11:00 AM UTC
D会場(神戸国際会議場 4階 401会議室)
司会:井野 敬子(国立精神・神経医療研究センター)、坂口 昌徳(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構/国立精神・神経医療研究センター)
メインコーディネーター:井野 敬子(国立精神・神経医療研究センター)
サブコーディネーター:坂口 昌徳(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構/国立精神・神経医療研究センター)
精神疾患の治療において、新たな治療法の開発は極めて重要である。多くの精神疾患が従来の治療法では十分な効果が得られない中で、新規治療の開発は患者に新たな希望をもたらす。PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、米国で年間1,500万人が罹患する深刻な疾患であり、その効果的な治療は社会的・経済的な課題であるが、第一選択治療であるトラウマ焦点化心理療法は高い有効性を示すものの、治療家の不足・患者の負担の高さが普及を妨げており、薬物療法の反応率も十分でない。これらの課題を解決するため、新たな治療法の開発が急務となっている。
本シンポジウムでは、学術領域の全く異なる各シンポジストがそれぞれの視点から、最先端の研究とテクノロジーを融合した新しいPTSD治療開発研究を紹介する。
最初のシンポジスト小泉は、恐怖記憶の矛盾した現象を解明し、それに基づく革新的な治療アプローチを目指している。彼女の研究は、「忘れられない強い連合記憶」と「思い出せない弱い時系列記憶」のメカニズムを明らかにし、PTSD治療の新たな可能性を示している。
次に、坂口が独自の動物実験を基に、睡眠時の音刺激を用いてトラウマ想起を誘導し、その音に対する恐怖反応を低下させる治療開発研究を紹介する。坂口は、これまでの動物実験を通じて、睡眠中の音刺激がPTSD患者の恐怖反応を軽減する可能性を示しており、井野や善甫と協力し、PTSD患者に対する睡眠時音刺激を用いた治療技術の実施可能性確認研究を遂行している(JRCT:CRB3200004)。
続いて、善甫が、音によるVirtual Reality(Sound VR)の生成技術を紹介する。Sound VRはデータで利用者に送信できる即時性とピータビリティーの高い治療マテリアルが提供できる。この技術開発においても、坂口と連携し、音刺激による新しい治療方法の臨床応用を目指している。
最後に、井野が、PTSD臨床の専門家として、オンラインによる持続エクスポージャー療法においてSound VRを利用した自験例を紹介する。この善甫らが作成するSoundVRは単なる効果音の寄せ集めではなく、臨場感、人の声なども再現すことができ、そして何よりヘッドマウントディスプレイなどの専門機器を利用しないでイヤホンと済むという利便性、効率の高さなどの利点が高い。このため、オンライン治療と相性が良く、患者の治療への利便性が進み、早期の実用化できると考えている。SoundVRによって、現実には取り組みにくいエクスポージャー課題(例:加害者がいるかもしれない場所に滞在する)の疑似体験が可能となり、治療の選択肢が大きく広がった。また井野は前述した新しい治療の開発に携わっており、開発において直面する安全性の課題と倫理的、規制的な課題があり、その点についても議論する。
本シンポジウムを通じて、PTSD治療における新たな技術開発とその臨床応用の可能性を議論し、テクノロジーが精神疾患治療にどのように貢献できるかを考察する。

[SY13-1]「忘れられない」けれど「思い出せない」恐怖記憶の矛盾する2つの現象を説明するメカニズム

小泉 愛 (ソニーコンピュータサイエンス研究所)

[SY13-2]PTSD患者の睡眠特性と睡眠時音刺激治療の実現可能性

坂口 昌徳1,2, 関場 遥1,2, 廣幡 小百合3, 堀 有伸4, 須賀 楓介5, 利重 裕子6, 正木 みのり1, Vergara Pablo1, 富永 杜絵7, 柳沢 正史1,7, 金 吉晴2 (1.筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構, 2.国立精神・神経医療研究センター, 3.医療法人仁愛会水海道厚生病院, 4.ほりメンタルクリニック, 5.舞多聞こころのクリニック, 6.名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野, 7.(株)S’UIMIN)

[SY13-3]生成AIと立体音響技術に基づく治療用の音VR合成システム

善甫 啓一 (筑波大学)

[SY13-4]PTSD治療における音響バーチャルリアリティの応用可能性

井野 敬子 (国立精神・神経医療研究センター)