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[SY39]シンポジウム39_解離性同一性症をどう理解するか、どう治療するか―DID実践治療アプローチの展開

Thu. Jun 19, 2025 8:30 AM - 10:30 AM JST
Thu. Jun 19, 2025 11:30 PM - 1:30 AM UTC
M会場(神戸ポートピアホテル 本館 B1階 偕楽3)
司会:松本 俊彦(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)、井上 悠里(医療法人豊仁会まな星クリニック)
メインコーディネーター:新谷 宏伸(本庄児玉病院)
サブコーディネーター:新村 秀人(大正大学臨床心理学部)
解離性同一性症(Dissociative Identity Disorder,以下DID)は,自己,他者,世界の境界が曖昧になり,一貫した時間軸を構築しづらいという特徴を持ち,結果として経験の知覚や弁別が困難となる病態である。1980年公表のDSM-Ⅲからはヒステリーの名称が廃止され,解離症群の症状を「他者を操作する手段」と捉える傾向は減少したものの,依然として解離症群の適切な治療法について学ぶ機会は限られている。結果として,トラウマや解離性人格部分に対して慎重に対応せざるを得ないというジレンマが生じる。無論,トラウマの処理よりもコンテイン(抱え)が優先される安定化段階においてはこの方針も一定程度の正しさを含有するが,DID臨床でより重要なのは,患者に真に役立つコンパッションに満ちた作業仮説を手にすることであろう。幸いなことに,van der Hart et al.が,Janetの業績である活動心理学に「よい理論ほど実践的なものはない」という実相を見出だして構造的解離モデル(2006)の礎とする作業を確立した。また,解離性同一性症患者の脳でトラウマスクリプト曝露後の局所脳血流量がNeutral Identity States(中立的人格状態,NIS)とTrauma-related Identity States(トラウマ関連人格状態,以下TIS)では逆の活性を示すといった生物学的指標の可視化も進みつつある(Reinders,2014)。被虐待環境下の若年期を生き延びるために同一性を分離し,表で活動する人格状態を使い分けるという適応手段を用いてきたDID患者は,成人後もTISの影響を受け続け,平穏なはずの日常が恐怖に満ちた場と化す。そんな中,脳神経科学分野の発展は,偏見にさらされ孤立無縁感を味わってきたDID患者に恩恵をもたらすだろう。また,DIDの現代的な理解が進展すれば,より多くの臨床家が代理受傷のリスクから適度な距離を保ちやすくなり,患者との思慮深いコミュニケーションが可能となる(Lebois,2022)。
本発表では「解離の理解と治療」というテーマに焦点を当て,脳神経科学と臨床実践の間での適切な調整を探索し,情報整理と解離能力の活用という二律背反的作業を脳に求める困難さに対処するための糸口を見つけたい。初めに,米国でトラウマ臨床に従事する牧野が,身体志向心理療法の施行経験に言及しながら,海外トラウマ集中治療施設でのパーツワークとトラウマ処理の実際を示す。次いで企画者の新谷が,構造的解離理論を理論的かつ実践的に展開させた専門書『Treating Trauma-Related Dissociation』(Steele et al.,2016)から核心概念を抽出し,解離臨床の世界的潮流について論じる。続いて大友が,特に周辺環境の調整や,家族とのかかわり,心理教育といった観点までを含め,発達や長期的予後の視点も含めた実践的な話題を提供する。さらに細澤が,近年の手法を故安克昌,故中井久夫らが手掛けた治療と対比しつつ包括的に指定発言を行い,その後の質疑応答と総合討論での意見交換へとつなぐ。なお各発表は,本学会の指針に従い,個人情報保護を含む倫理的配慮に十分に留意した上で行う。

[SY39-1]解離に対するソマティック・アプローチ

牧野 有可里 (ソマティック・アプローチ・ジャパン)

[SY39-2]「解離症の治療原則」を解離性同一性症に適用する

新谷 宏伸 (明雄会本庄児玉病院)

[SY39-3]解離性障害治療の成否を分けるトラウマ処理の前後:”起”と”結”の作業についての実践的考察

大友 理恵子1,2 (1.カウンセリングルームrtam, 2.医療法人黒崎中央医院)

[指定発言]指定発言

細澤 仁 (フェルマータ・メンタルクリニック)