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[SY45]シンポジウム45_からだの痛みとこころの痛み:脳から生じる痛みの臨床・研究最前線

Thu. Jun 19, 2025 8:30 AM - 10:30 AM JST
Thu. Jun 19, 2025 11:30 PM - 1:30 AM UTC
O会場(神戸ポートピアホテル 本館 B1階 生田)
司会:臼井 千恵(順天堂大学医学部附属練馬病院)、井上 雄一(東京医科大学睡眠学講座)
メインコーディネーター:臼井 千恵(順天堂大学医学部附属練馬病院)
サブコーディネーター:井上 雄一(東京医科大学睡眠学講座)
このシンポジウムでは、痛みの概念や治療における新たな進展に焦点を当て、精神科医が慢性痛に対してどのように貢献できるかを議論する。
2020年、国際疼痛学会は痛みの定義を「組織損傷の実際の発生またはその可能性に伴う不快な感覚および情動体験、またはそれに類似する不快な感覚および情動体験」と再定義し、痛みが単なる感覚体験にとどまらないことを強調した。痛みは、身体的な感覚だけでなく、心理的・情動的な要素も強く関与する複雑な体験であるという理解が広がりつつある。また、近年では痛みの第3の分類として「痛覚変調性疼痛」が提唱され、従来の「侵害受容性疼痛」や「神経障害性疼痛」といった分類では説明できない痛みの存在が認識されるようになってきた。痛覚変調性疼痛は、明確な組織損傷や神経の損傷がなくても生じる痛みであり、線維筋痛症や慢性腰痛など、原因がはっきりしない慢性痛の説明として注目されている。この新たな概念は、痛みの診断と治療において革新的な視点をもたらしている。
さらに、ICD-11において国際疼痛学会は慢性痛を7つのカテゴリーに分類している。この分類の中で特に注目すべきは、「一次性慢性痛」である。これは、特定の原因が見つからないにもかかわらず持続する痛みを示し、線維筋痛症をはじめとする多くの慢性痛がこのカテゴリーに含まれている。こうした新たな分類によって、これまで診断や治療が困難だった痛みの理解が進み、患者への適切な治療介入が期待されている。
慢性痛には、脳の機能変化が重要な役割を果たしていることが近年の研究で明らかになってきた。慢性痛患者の脳では、痛みの知覚と情動の処理に関与する領域において、構造的・機能的な変化が生じている。痛みは単なる身体の不快感ではなく、不安や抑うつといった情動的な要素とも密接に関連していることがわかってきた。そのため、精神科医による介入がこれまで以上に重要な役割を果たすと考えられている。
実際、慢性痛患者の多くは、睡眠障害、不安、抑うつ、疲労感などの精神的・神経的な症状を併発しており、これらの症状が痛みをさらに悪化させる悪循環に陥ることがある。このため、慢性痛の治療においては、精神科医が積極的に関与し、痛みの背後にある心理的要因や社会的要因にアプローチすることが求められている。心理療法や薬物療法、認知行動療法など精神科専門的な治療法を組み合わせることで、患者のQOLを向上させることが可能となる。
本シンポジウムでは、「脳から生じる痛み」に焦点を当て、最新の知見や治療法を共有するとともに、精神科医が果たすべき役割について深く議論する。痛みの背景にある脳機能の変化や情動の影響を理解することで、精神科医が慢性痛の科学を発展させ、効果的な治療アプローチの確立に寄与できると期待される。
本シンポジウムは、日本線維筋痛症・慢性痛学会の推薦を受けている。

[SY45-1]慢性疼痛を関係性の文脈から考える

西原 真理 (愛知医科大学病院)

[SY45-2]痛覚変調性疼痛~脳から生じる痛み~

臼井 千恵 (順天堂大学医学部附属練馬病院)

[SY45-3]痛みを脳と身体の対話から紐解く

吉野 敦雄1,2 (1.広島大学保健管理センター, 2.広島大学脳・こころ・感性科学研究センター)

[SY45-4]慢性疼痛と新型/現代型うつ

加藤 隆弘1, 藤本 晃嗣2,3, 細井 昌子2,3 (1.北海道大学大学院医学研究院神経病態学分野精神医学教室, 2.九州大学病院集学的痛みセンター, 3.九州大学病院心療内科)

[SY45-5]中枢性感作と睡眠障害の関係性について

井上 雄一1,2 (1.東京医科大学睡眠学講座, 2.睡眠総合ケアクリニック代々木)