Session Details

[SY82]シンポジウム82_ゲノム医療時代における精神科医の使命と革新的リテラシー

Fri. Jun 20, 2025 1:30 PM - 3:30 PM JST
Fri. Jun 20, 2025 4:30 AM - 6:30 AM UTC
K会場(神戸ポートピアホテル 本館 B1階 偕楽1)
司会:石黒 浩毅(山梨大学大学院総合研究部臨床遺伝学講座)、久島 周(名古屋大学医学部附属病院ゲノム医療センター/名古屋大学大学院医学系研究科精神医学分野)
メインコーディネーター:石黒 浩毅(山梨大学大学院総合研究部臨床遺伝学講座)
サブコーディネーター:久島 周(名古屋大学医学部附属病院ゲノム医療センター/名古屋大学大学院医学系研究科精神医学分野)
ゲノム医療の進展により、精神科診療の分野は大きな変革を遂げつつある。精神疾患は、遺伝要因、環境要因、さらには偶発的な要因が複雑に絡み合う多因子疾患であり、精神疾患の理解を深めることで、プレシジョン・メディスンをはじめとする新たな治療アプローチの可能性が広がる。また、精神科医は身体疾患を抱える患者の心理支援も担っており、ゲノム医療の知識が時に必要となる。そのため、精神科医にはゲノム医療に関する知識の習得と、遺伝的背景を考慮した診断や治療を行うためのスキルの向上が求められる。これにより、個々の患者に適した最適な診療と支援が可能となり、より精密で効果的な医療の提供が実現する。
アルツハイマー病における抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ)投与にあたっては、APOE遺伝子の解析による副作用予測が推奨されるなど、ゲノム情報を活用した個別化医療の実現が進んでいる。また、ポリジェニックリスクスコア(PRS)による多因子疾患の発症リスク評価の臨床応用も注目されているが、まだ課題が多い。しかし、マイクロアレイ染色体検査(アレイCGH)を用いた22q11.2欠失症候群や3q29重複症候群などの染色体微細構造異常の診断が保険適用されるなど、精神症状を呈する疾患についてもゲノム医療は既に一部で実践されている。
遺伝性疾患や染色体異常症には学童期から神経発達症に対する精神医学的治療のニーズがある。特にこれらの患者の寿命が延びたことで、小児期から成人期への移行(トランジション)期の課題として、精神科的治療や心理支援の重要性が増大している。遺伝医療では遺伝カウンセリングが行われているが、精神的・社会的苦痛への総合的な評価や支援体制はまだ発展途上にあり、精神科医療の専門性が十分に活用されていない現状がある。
ゲノム医療におけるリテラシーは、単なる知識の習得だけでなく、患者へのアプローチや治療計画の立案に積極的に応用する能力を含む。さらに、精神科医はゲノム医療が引き起こす倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に対処する必要がある。遺伝学的検査の結果がもたらす心理的負担や、潜在的な遺伝的差別のリスクに十分に配慮し、患者の不安や疑問に寄り添い、適切な医療を提供することが重要である。精神科医の活動はコンサルテーションリエゾンサービス(CLS)や緩和ケアなど、広がりを見せている。これらの領域では、患者の精神的支援のみならず、社会的・人間関係の支援も求められる。ゲノム医療においても、精神科医の役割は大きく、今後さらに重要になると考えられる。
ゲノム医療の進展に伴い、精神科医には個別化医療の提供、倫理的配慮、精神的支援における総合的能力を含む新たなリテラシーが必要である。本シンポジウムでは、精神科医に必要なゲノム医療の知識とその応用、倫理的課題への対応、精神科医の役割と責任について議論を行う。これにより、精神科診療の質を向上させ、患者の生活の質を高めるための具体的な方策を探求する場としたい。

[SY82-1]遺伝子疾患診療科と精神科とのハイブリッド医療

石黒 浩毅 (山梨大学大学院総合研究部臨床遺伝学講座)

[SY82-2]ゲノム医療と精神科診療の有機的な連携を目指して

竹内 千仙 (東京慈恵会医科大学附属病院遺伝診療部)

[SY82-3]ゲノム時代の精神医療:遺伝情報の臨床応用と精神科医の新たな使命

久島 周1,2 (1.名古屋大学医学部附属病院ゲノム医療センター, 2.名古屋大学大学院医学系研究科精神医学分野)

[指定発言]指定発言

橋本 亮太 (国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)