The 121st Annual Meeting of the Japanese Society of Psychiatry and Neurology

司会：松原 敏郎（山口大学大学院医学系研究科高次脳機能病態学講座）、金井 玉奈（富士リハビリ病院）
メインコーディネーター：金井 玉奈（富士リハビリ病院）
サブコーディネーター：松原 敏郎（山口大学大学院医学系研究科高次脳機能病態学講座）

超高齢社会を迎えた我が国において、精神疾患を抱える高齢者、特に長期入院中の統合失調症患者や認知症を伴う患者、合併する身体疾患の終末期にある患者や家族との関係が希薄な患者が、どのように自分らしい人生を全うできるかは、非常に重要な課題である。万が一に備えて、自分が大切に思っていることや希望すること、今後どのような医療や支援を望んでいるかについて考え、家族や医療・介護スタッフと共有するアドバンス・ケア・プランニング（ACP）は、がん、心不全、慢性呼吸器疾患などの身体科慢性疾患において広く導入されつつある。しかし、同じく慢性疾患である精神疾患患者に対するACPの導入は遅れており、自己決定権が十分に尊重されていない現状がある。
その背景には、身体治療科の医療者からのスティグマ、患者が意思や希望を伝えづらい時期があること、病状によっては治療拒否権が認められないこと、さらに社会的つながりの希薄さなどが挙げられる。精神疾患の中で認知機能低下が進行する認知症についてはACPの導入が進みつつあるが、統合失調症、うつ病、双極性障害などにおいても、予後を左右する認知機能障害の存在が近年注目されており、認知症以外の精神疾患でも、特に高齢者においてはACPを導入する必要性が示唆されている。
本シンポジウムでは、こうした課題を踏まえ、高齢の精神疾患患者にもACPを積極的に導入し、彼らが望む「自分らしい生き方」を実現するための方法について議論する。
具体的には、大石が心不全患者、吉岩が認知症患者、松原が精神疾患を併存したがん患者、金井が長期入院中の高齢の精神疾患患者に対するACPおよび緩和ケアについて、その開始時期、患者の意向の変化への対応、患者との信頼関係の構築方法、家族や他の医療・介護スタッフとの連携方法、安心して話せる環境の作り方、延命措置の中止等に関する法的・倫理的な観点など、ACPのノウハウを具体的な事例とともに紹介し、それを精神疾患患者にどのように応用できるかを探る。
本シンポジウムを通じて、精神科医療におけるACPの意義と発展可能性を深め、患者が自己決定を果たし、自分らしい生き方を全うできる医療の在り方を提案することで、精神神経科学のさらなる充実と発展に寄与することを目指したい。