講演情報
[54]近代都市計画制度の発展過程における工場緑地の理念の変化ー工場の「庭園化」から「緑化」への展開ー
○村上 善明1、秋田 典子2 (1. 千葉大学大学院園芸学研究科、2. 千葉大学大学院園芸学研究院)
キーワード:
近代都市計画、工業地帯、生活環境、工場緑化、用途混在
旧都市計画法、市街地建築物法に基づく近代都市計画制度は、京浜地域に近代型の大規模工場が立ち並ぶ工業地帯を創出した。しかし、当時の工場従業員のうち、正社員は郊外で生活する一方、労働者は工業地帯の劣悪な環境で生活していた。本研究は、近代都市計画制度の発展過程における工場緑地の理念の変化と、その帰結を明らかにするものである。研究の結果明らかになったのは以下のとおりである。1930年代、当時の社会官僚である富田は、工業地帯で働く労働者の生活環境改善を目指し、英国工場村から着想を得た「工場の庭園化」を提唱した。これは、労働者の工場空間認識の変革を目指したものだった。富田の理念は、大野により「工場緑化」として神奈川県内の工場で実行に移された。ただ大野の「工場緑化」は工場内への庭園整備事業であり、富田の理念とは似て非なるものだった。しかし、結果として多くの大規模工場で工場庭園が設置され、「工場の庭園化」が一部実現した。その後の近代都市計画において、工場緑地の理念は「防空」から「公害防止」へと変遷し、現代まで継承されることとなる。