講演情報
[P-001]誤嚥性肺炎患者における口腔環境と下気道炎症の関連性の検討
○今田 良子1,2、神尾 宜昌1、山口 浩平2、岡崎 章悟1、杉本 梢1、戸原 玄2、今井 健一1 (1. 日本大学歯学部感染症免疫学講座、2. 東京科学大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野)
【目的】誤嚥性肺炎による死者数は肺炎の死者数を凌駕する勢いで増加している。災害関連死においても誤嚥性肺炎が一番の問題となるなど、その対策は社会問題となっている。、誤嚥性肺炎は再入院率が高く,繰り返す入退院や入院期間の長期化によりADLが低下するとともに死亡率も上昇する。昨年我々は、誤嚥性肺炎の患者のみを対象とした初めての前向きコホート研究において、歯科医師による口腔健康管理が、死亡例も含めた誤嚥性肺炎の再発を約50%も減少させることを報告した。しかし、なぜ口腔健康管理が死亡率や再入院率等を改善できるのかについては、基礎的なエビデンスがなく良くわかっていない。そこで本研究では、誤嚥性肺炎患者の下気道の炎症に着目し、口腔環境(OHAT)との関連性を検討した。【方法】急性期医療を中心に地域医療を支える基幹病院に誤嚥性肺炎の診断で入院した65歳以上の患者を対象とした。週に1回歯科医師が口腔衛生管理に介入し,初診及び介入1週間後の喀痰を採取した。採取した喀痰中の炎症性サイトカイン(IL-8)濃度をELISA法により測定した。また喀痰中の細菌叢解析を実施し、総菌数とIL-8との相関関係を解析すると共に、OHATとの関連性を検討した。【結果と考察】対象者は13名(男性6名、女性7名、平均年齢83±9.3歳)であった。誤嚥性肺炎患者の喀痰中IL-8濃度は歯科医師介入初診時から1週間後までの間に特に低下した(p=0.0267)。OHAT=6以下をLOW-OHAT群,OHAT=7以上をHigh-OHAT群に分けMann-Whitney U検定にて比較検討した。その結果,介入1週間後のIL-8濃度はLOW-OHAT群よりもHigh-OHAT群の方が高い傾向を示した(p=0.0534)。さらに喀痰中の菌数とIL-8は正の相関を示した(r=0.4390,p=0.0248)本研究により、口腔衛生管理が口腔環境と共に下気道の炎症を改善している示唆された。特に、介入1週間後においてLow-OHATではその傾向が高いことが明らかとなり、口腔環境と下気道炎症とが深く関連していることが分子レベルで初めて明らかとなった。現在、他の解析指標や細菌叢との比較検討を進めている。(COI 開示:なし)(日本大学歯学部倫理審査委員会承認番号EP21D009)。