講演情報

[P-003]老齢マウス顎下腺の加齢変化に対する歯髄幹細胞由来培養上清投与効果の検討

○米山 実来1、高橋 悠2、田中 彰1,2 (1. 日本歯科大学新潟生命研究科 顎口腔全身関連治療学、2. 日本歯科大学新潟生命歯学部 口腔外科学講座)
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【目的】
 加齢による唾液腺機能低下は時に重篤な口腔乾燥症を引き起こすが、根本的な治療法は存在しない。唾液腺の老化では、自己再生能の低下や細胞老化関連分泌現象因子(SASP因子)が関与している可能性が報告されている。ヒト歯髄幹細胞由来培養上清(Human dental pulp stem cells-Conditioned Medium:以下CM)には多くのサイトカインや成長因子が含まれ、再生医療への応用が行われている。本研究では、老齢マウスにCMを全身投与し、顎下腺の変化に関して検討を行った。
【方法】
 ヒト歯髄幹細胞を培養した上清を回収し、CMとして使用した。対象動物はC57BL/6J系統老齢マウス(84週齢、雄、各n=6)とした。実験群はCM投与群(CM群)、非投与群と無血清培養液(DMEM)投与群の3群とした。CMやDMEMの投与は週2回を計4週間、250㎕/bodyずつ腹腔内投与した。最終投与から1週後に犠牲死、顎下腺を摘出し、各種解析を行った。
【結果と考察】
 HE染色では、CM群においてリンパ球浸潤の抑制傾向を認めた。サイトカインアレイ分析では、CM群においてIL-10の増加、IFN-γの減少、TGF-βの減少を認めた。real-time PCRでは、CM群においてc-kit、CK5、IL-10は有意に増加し、p16、p21、IFN-γ、TGF-βは有意に減少した。老齢マウスの顎下腺組織は、c-kitやCK5が乏しく、自己再生能の低下が報告されている。本研究では、CM群におけるc-kitとCK5の増加から、自己再生能の回復傾向が示唆された。さらに老化マーカーであるp16とp21は、CM群において減少を認め、老化抑制効果が示唆された。老化細胞はSASP因子を分泌し、細胞老化関連分泌現象を引き起こすことが報告されている。CM群では、IL-6、IFN-γ、TGF-βの発現量減少とIL-10の発現量増加を認め、CM投与がSASP因子の分泌を抑制し、抗炎症作用が働いた可能性が考えられた。老齢マウスへのCM投与により、自己再生能の回復と各種老化マーカーの改善を認め、加齢による唾液腺機能低下の新たな治療法となることが期待された。(COI開示:なし)(日本歯科大学新潟生命歯学部 動物実験委員会承認番号213)