講演情報

[P-043]歯科訪問診療を契機に喉頭気管分離術を受け経管栄養から経口摂取に移行したパーキンソン病患者の一例

○堤 康史郎1,2、柏崎 晴彦2 (1. 医療法人福和会、2. 九州大学大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 高齢者歯科学・全身管理歯科学分野)
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【緒言・目的】
 パーキンソン病は,中脳黒質のドパミン神経細胞の変性を中核とする進行性の神経変性疾患で,40歳以上の中高年の発症が多く,特に65歳以上の発症が多い。進行すると自力歩行困難や寝たきりになるため,歯科訪問診療の介入は必須である。今回,パーキンソン病により経管栄養中の患者において,歯科訪問診療にて義歯製作を契機に喉頭気管分離術を受け経口摂取へ移行した1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 初診時54歳の男性。要介護5で自宅療養中。パーキンソン病(2010年発症,Hoehn & Yahr分類Ⅴ度),DBS(Deep Brain Stimulation)植え込み後(2017年),神経因性膀胱に対する膀胱瘻造設(2021年),気管切開・人工呼吸器装着(2021年11月),胃瘻造設(2022年1月)の既往あり。2023年5月,上顎前歯部の補綴物脱離のためケアマネジャーより歯科訪問診療を依頼され,介入を始めた。口腔外所見:身長178.7㎝,体重64.6㎏,BMI 20.1。Activities of Daily Living(ADL)は全介助。治療に対して協力的。口腔内所見:残存歯は上顎に9本,下顎に10本。上下義歯は所持していなかった。食形態は胃瘻からの経管栄養のみで1200cal/日摂取していた。同年6月,上顎前歯部の審美性回復を目的に上顎義歯のみ製作し,家族に義歯使用について指導した。調整1週間後,家族より本人が痛みなく義歯を使用していると報告を受けた。11月,本人の希望で経口摂取再開を目的に近医耳鼻科にて喉頭気管分離術を受けた。退院後,言語聴覚士による訪問リハビリにて週2回嚥下訓練を受けながら同月経口摂取を再開した。2024年1月,現義歯で前咬みし始め,奥歯でも食べ物を咬みたいと訴えたため,上下義歯を製作した。同年2月,家族より義歯使用良好との報告を受けたが,3月,43┘補綴物脱離により上顎義歯を増歯修理した。4月,常食まで摂取可能となり,胃瘻による経管栄養が200kcal/日まで減少した。以降,毎週,歯科衛生士による口腔衛生管理と歯科医師による口腔機能管理を続け,言語聴覚士と連携し嚥下訓練を実施している。尚,本報告の発表について患者家族より文書による同意を得ている。
【考察】
 本症例では,歯科訪問診療において,パーキンソン病により経管栄養中の患者に対し義歯製作を契機に喉頭気管分離術を受け経口摂取へ移行し,言語聴覚士と連携したことで常食まで摂取可能となり,胃婁による経管栄養が200kcal/日まで減少した。今後,咬合の安定と経口摂取が維持できるよう深く関わって行きたい。(COI開示:なし)(倫理審査対象外)