講演情報

[P-045]義歯治療をきっかけに診断された乳頭状唾液腺腺腫の一例

○松村 香織1、鈴木 宏樹1 (1. 公立八女総合病院歯科口腔外科)
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【緒言・目的】
 乳頭状唾液腺腺腫は, 2017年WHO分類で導管乳頭腫から独立した唾液腺良性上皮性腫瘍として分類される比較的まれな疾患である。大多数が口蓋に発生し,粘膜に広基性,有茎性の乳頭状の境界明瞭な外向性腫瘤を形成する。今回, 上顎総義歯の新製をきっかけに診断された乳頭状唾液腺腺腫の症例を経験したので,その概要を報告する。
【症例および経過】
 76 歳,男性。2023年11月に入所中の施設で歯科訪問診療を受け,上顎総義歯の新製を計画された。その際の口腔内診査で右側硬口蓋に腫瘤形成を認めたため,精査目的に当科を紹介され受診した。既往歴に高血圧症,糖尿病,大腸癌があった。右側硬口蓋に軽度の発赤を伴う径10mmの乳頭状腫瘤を認めた。CTでは明らかな骨破壊像は認めなかった。擦過細胞診ではclass Ⅲaの結果であったため,後日部分生検を実施したところ,乳頭状唾液腺腺腫が疑われた。生検組織で明らかな異型細胞を認めず,後日局所麻酔下に口蓋腫瘍切除術を施行した。腫瘍周囲に約3mmの安全域を設けて切除線を設定し,底部は骨膜上で切除した。創部は人工真皮で被覆した。
 切除標本に対して病理組織学的検討を行い,HE染色で扁平上皮と腺管構造を伴う導管に類似した円柱上皮の乳頭状の増殖と,組織深部に嚢胞状の腺管を認めた。腺管は二層性配列を呈し,内面の上皮細胞はCK CAM5.2およびCK7陽性,上皮基底側の細胞はp63およびαSMA陽性であった。以上の細胞形態所見,免疫組織化学染色の所見から乳頭状唾液腺腺腫の病理組織学的診断を得た。
 現在,術後1年が経過しているが,現時点で再発所見は認めていない。
【考察】
 小唾液腺腫瘍は比較的悪性腫瘍の頻度が高く,良性であっても悪性と類似する組織学的所見がみられることや非腫瘍性病変との鑑別も問題となる場合がある。小唾液腺腫瘍は比較的口蓋に発生することが多く,本症例のように義歯新製をきっかけに発見されることもある。乳頭状唾液腺腺腫は唾液腺良性腫瘍の一つであるが,再発の頻度は他の唾液腺乳頭腫より高く10%前後とされており,過去には悪性転化した症例も報告されている。したがって,今後も長期的な経過観察を行っていく必要があると考えている。
 なお, 本報告の発表について患者本人から同意を得ている。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)