講演情報

[P-047]多面的な支援が摂食意欲を促した視床痛を伴うパーキンソン病の1例

○田中 陽子1、矢口 学1、梅澤 幸司2 (1. 有病者歯科検査医学、2. 障害者歯科学)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【緒言・目的】
 嚥下障害を伴わないものの,視床痛と味覚異常によって食欲不振に陥り,胃ろうによる栄養摂取をしていたパーキンソン病患者が,多面的な支援で経口摂取を再開した症例を経験したため報告する。本発表は,書面により本人および家族に同意を得た。
【症例および経過】
 88歳女性でパーキンソン病あり。2年前に脳出血を発症後に視床痛による口腔内を含む疼痛と全ての味を塩辛く感じる味覚異常が出現し,食欲不振となった。栄養不良で胃ろう造設し経腸栄養剤による栄養摂取が開始され,経口摂取をしなくなった。退院後に在宅療養支援診療所による支援が開始された。同時期に夫も反回神経麻痺による嚥下障害で胃ろう造設となり,在宅療養支援診療所による支援が開始された。夫が経口摂取を強く望んだことから,当院に夫婦に対する嚥下内視鏡検査による嚥下機能評価の依頼があった。本患者の嚥下機能は良好で兵頭スコアでも経口摂取は可能であった。しかしながら顔面左側に痛みを訴え,口腔内診査は不可能であった。味覚検査を実施したところ,甘味を塩味と訴えた。そこで,在宅療養支援診療所を介して,舌痛症に効果があるとされる立効散を処方した。味覚異常は立効散の効果を確認後に対応することとした。当院による2か月後の訪問時には,甘味類を中心に経口摂取が開始されていた。酸味,甘味,塩味の味覚検査を実施したところ,全ての味に異常を認めなくなっていた。さらに,痛みを訴えず口腔内診査と超音波スケーラーによる歯石除去も可能となった。
【考察】
本症例はパーキンソン病であり,手足に振戦が認められたが,嚥下機能は維持されており経口摂取可能であった。しかしながら口腔内の痛みと味覚異常で経口摂取への意欲が失われた。今回,夫の検査に付随する形での嚥下内視鏡検査であったが,本人や家族が嚥下機能を視覚的に確認でき,口から食べられることを再認識できたため,経口摂取への意欲が出てきたとのことであった。さらに,立効散の服用を開始してから気が付かないうちに痛みの訴えが減少し,好きだった甘味類を楽しんで食べることができるようになったことは精神的にも寛解への一助となったと考える。以上のことから,嚥下内視鏡による視覚的な支援と,医科との連携による漢方の処方という多面的な支援が患者の良好なQOLの獲得につながったと思われる。(倫理審査対象外)(COI開示:なし)