講演情報
[P-055]口腔癌の終末期患者に口腔衛生管理を行った一例
○稲冨 みぎわ1、平塚 正雄2、庄島 慶一2、赤木 郁生3、高峯 博紀3,1、秋山 悠一1 (1. 医療法人社団秀和会 水巻歯科診療所、2. 医療法人社団秀和会 小倉北歯科医院、3. 医療法人社団秀和会 小倉南歯科医院)
【緒言・目的】
今回,私たちは,口腔底癌を有する終末期患者に対し,口腔衛生管理を行った症例を経験したので報告する。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【症例および経過】80歳男性。アルコール依存症。2024年8月,主訴:口内炎が治らず,食事がとれないので見てほしいとの歯科訪問診療の依頼。日常生活自立度J,認知症なし。体重は40.9㎏,当院受診前4か月間で15㎏の体重減少。栄養摂取は,栄養補助食品のみを経口摂取(FOIS2)と明らかな低栄養状態。口腔内所見,残存歯齲蝕なし。歯肉縁上歯石沈着と辺縁歯肉発赤を認めるが,著しい腫脹・動揺歯はない。発語不明瞭。唾液嚥下困難で,血液交じりの唾液を吐き出している状態。OHAT-J10点,口腔清掃は全く行っていなかった。舌下部に潰瘍を認め,口腔底癌を疑い,3次医療機関を紹介。口腔底癌ステージⅣAと診断され,即日入院。放射線治療が開始された。2024年10月,回復期病院へ転院,歯科訪問診療を再開した。転院時の日常生活自立度C-1,栄養摂取はTPN(FOIS1),病棟看護師による口腔清掃は行われずOHAT-J12、刺激性唾液の分泌は認められない。粘膜は易出血性,舌下部の粘膜表面は平滑で潰瘍消失。発語不可。スポンジブラシの使用は痛みを伴うため,湿らせたガーゼを丁寧に剥離上皮膜を除去すれば,不明瞭ながらも発語できた。病棟看護師へは,日に数回ガーゼを用いた清拭方法と口腔内を保湿するよう指導した。1週間後,剝離上皮膜付着は改善され,発語できる状態となっていた。退院が決まり,家族,訪問看護師,主治医と連携し,歯科訪問診療を継続した。歯科衛生士介入時,JSCは2桁であることが多く,SPO2は90代前半。他職種とICTを用い情報共有を行った。週2回の介入により,OHAT-J7点となり,訪問看護師も清拭を怖がらずに行えるようになり,また覚醒時には家族と会話ができるようになった。その後,死亡の転機となった。
【考察】
口腔癌の放射線治療後は,唾液分泌の減少,粘膜炎の発症による痛みの訴えが強くなる傾向があり,家族や他職種は口腔清掃に消極的となることが多い。今回,歯科の介入により,終末期患者の口腔衛生状態を改善することができた。発語しやすくなったことは, 患者の残された時間におけるQOLを向上させることができたのではないかと考えられた。
(COI開示:なし)
(医療法人社団秀和会倫理委員会承認番号2501)
今回,私たちは,口腔底癌を有する終末期患者に対し,口腔衛生管理を行った症例を経験したので報告する。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【症例および経過】80歳男性。アルコール依存症。2024年8月,主訴:口内炎が治らず,食事がとれないので見てほしいとの歯科訪問診療の依頼。日常生活自立度J,認知症なし。体重は40.9㎏,当院受診前4か月間で15㎏の体重減少。栄養摂取は,栄養補助食品のみを経口摂取(FOIS2)と明らかな低栄養状態。口腔内所見,残存歯齲蝕なし。歯肉縁上歯石沈着と辺縁歯肉発赤を認めるが,著しい腫脹・動揺歯はない。発語不明瞭。唾液嚥下困難で,血液交じりの唾液を吐き出している状態。OHAT-J10点,口腔清掃は全く行っていなかった。舌下部に潰瘍を認め,口腔底癌を疑い,3次医療機関を紹介。口腔底癌ステージⅣAと診断され,即日入院。放射線治療が開始された。2024年10月,回復期病院へ転院,歯科訪問診療を再開した。転院時の日常生活自立度C-1,栄養摂取はTPN(FOIS1),病棟看護師による口腔清掃は行われずOHAT-J12、刺激性唾液の分泌は認められない。粘膜は易出血性,舌下部の粘膜表面は平滑で潰瘍消失。発語不可。スポンジブラシの使用は痛みを伴うため,湿らせたガーゼを丁寧に剥離上皮膜を除去すれば,不明瞭ながらも発語できた。病棟看護師へは,日に数回ガーゼを用いた清拭方法と口腔内を保湿するよう指導した。1週間後,剝離上皮膜付着は改善され,発語できる状態となっていた。退院が決まり,家族,訪問看護師,主治医と連携し,歯科訪問診療を継続した。歯科衛生士介入時,JSCは2桁であることが多く,SPO2は90代前半。他職種とICTを用い情報共有を行った。週2回の介入により,OHAT-J7点となり,訪問看護師も清拭を怖がらずに行えるようになり,また覚醒時には家族と会話ができるようになった。その後,死亡の転機となった。
【考察】
口腔癌の放射線治療後は,唾液分泌の減少,粘膜炎の発症による痛みの訴えが強くなる傾向があり,家族や他職種は口腔清掃に消極的となることが多い。今回,歯科の介入により,終末期患者の口腔衛生状態を改善することができた。発語しやすくなったことは, 患者の残された時間におけるQOLを向上させることができたのではないかと考えられた。
(COI開示:なし)
(医療法人社団秀和会倫理委員会承認番号2501)