講演情報

[P-057]3Dプリント技術を用いた顎補綴のコピーデンチャー作製の有用性を検討した症例

○佐川 敬一朗1、丹野 晶博2 (1. 佐川歯科医院、2. 日立ユニオンデンタル株式会社)
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【緒言・目的】
 上顎腫瘍摘出後の顎補綴は、顎および歯牙欠損部の補墳による形態的な回復のみならず、 摂食嚥下機能や発音等の機能回復を目的とする。顎補綴は生きるために必要不可欠な装置であり、顎補綴を破損や紛失した場合には、突如として著しいQOLの低下を招く。新たに作製を行うとしても、短期間での作製は困難なことから、その間の栄養状態の低下や誤嚥・窒息リスクの増加は、生命予後を低下させる可能性が高い。
 近年、コンピユーター支援による設計, 加工システム(CAD/CAM:Computer Aided Design and Computer Aided Manufacturing)の発展が目覚しく、3Dプリントを用いた有床義歯の作製にも活用され始めている。上述した問題に迅速に対応する方法として、顎補綴の複製が有用であると考えられる。今回、広範囲に上顎骨を欠損した症例に対し、3Dプリントを用いた顎補綴の複製を試み、有用性を検証したため報告する。なお、本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【症例および経過】
 患者は74歳男性である。上顎洞癌術後による食事摂取困難を主訴に、顎補綴の作製を行った。作製にあたっては、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査を施行しながら5回の調整を行い、経口摂取や発話の改善とともにQOLの改善を認めた。その後、患者より、顎補綴を破損、紛失した場合の不安の訴えがあり、3Dプリント技術を用いた顎補綴のコピーデンチャーの作製を行った。なお、維持装置は鋳造により別に作製し、チェアサイドで維持装置の装着を行った。コピーした顎補綴は元の顎補綴と遜色無く機能することが確認された。
【考察】
 顎補綴の使用が必要不可欠な口腔癌術後の患者にとって、これを紛失や破損した場合には、途端に経口摂取や発話が困難になり、生活機能の低下は著しいものである。3Dプリント技術を用いることで、数日で元の顎補綴と遜色ない装置が作製可能なことは、これらの患者の生活機能の維持に必要不可欠な技術であると考えられた。また、このことは義歯においても同様であり、増加している認知症患者に頻発する、義歯の紛失に対して、有用であると考えられた。(COI 開示:なし)(倫理審査対象外)