講演情報
[P-061]咬合状態悪化が予想される下顎義歯の使用経験のない認知症患者に対して総義歯による補綴を行なった1例
○藤田 美沙季1、宮城 和彦1 (1. みやぎ歯科室)
【諸言・目的】
義歯の使用経験のない認知症患者はその使用方法習得の点でしばしば困難があるため、咬合状態を変化させる義歯による補綴治療は慎重に検討する必要がある。しかし、口腔内の残存歯に明らかな予後不良歯があり咬合状態の大きな変化が予想される場合は、現状維持とするよりも積極的な介入を試みる方が患者利益となる場合がある。今回我々は、下顎義歯の使用経験のない認知症患者に対し、残存歯の抜歯後に総義歯による補綴治療を行なった1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
89歳、女性。認知症、高血圧症、閉塞性動脈硬化症、脂質異常症、高尿酸血症、便秘症の既往あり。認知症による認知機能低下により自宅生活困難となり、2022年10月に認知症グループホームに入居された。入所時の口腔内診査にて重度の歯周炎と診断し複数歯の抜歯が必要な状態であった。下顎は両側側切歯および犬歯の4本のみが残存している状態であったが、本人は同部で咀嚼しているとのことであった。同歯は動揺度2~3度で、放置すれば脱落の恐れがある状態であったため、歯科医師と相談し下顎義歯を新製することとした。 残存する4歯については、著しい動揺を認めるものの咬合状態の急激な変化を避けるためにそのままの状態にて両側遊離端欠損の暫間義歯を作製することとなった。下顎義歯は使用経験がなかったが、歯科衛生士および施設スタッフが時間をかけて指導したことにより使用が定着した。その後歯科医師が、残存する4歯の抜歯、同部の増歯、抜歯部位の治癒後に最終義歯の作製を行なった。歯科衛生士が残存歯のSRPを行うことで、辺縁歯肉の炎症も消退した。初診時から口腔内の環境に大きな変化があったが、現在も義歯を用いて普通食を食べることができている。
【考察】
本症例は下顎の残存歯の脱落を初診時に予見していたため、現状維持ではなく段階を経て総義歯を作製したものである。暫間義歯の使用訓練を挟むことで、咬合状態を大きく変化させることなく義歯の使用に慣れることが可能であった。認知症により通常よりも慣れるための時間がかかるため、歯科衛生士が頻回に訪問し、施設スタッフにも情報を共有して訓練に長く時間を割く必要があるものと思われた。
全ての認知症患者に対し積極的な補綴治療が必要な訳ではないが、咬合状態の変化が予測される症例については早めの積極的な介入が有効な症例もあるものと思われた。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)
義歯の使用経験のない認知症患者はその使用方法習得の点でしばしば困難があるため、咬合状態を変化させる義歯による補綴治療は慎重に検討する必要がある。しかし、口腔内の残存歯に明らかな予後不良歯があり咬合状態の大きな変化が予想される場合は、現状維持とするよりも積極的な介入を試みる方が患者利益となる場合がある。今回我々は、下顎義歯の使用経験のない認知症患者に対し、残存歯の抜歯後に総義歯による補綴治療を行なった1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
89歳、女性。認知症、高血圧症、閉塞性動脈硬化症、脂質異常症、高尿酸血症、便秘症の既往あり。認知症による認知機能低下により自宅生活困難となり、2022年10月に認知症グループホームに入居された。入所時の口腔内診査にて重度の歯周炎と診断し複数歯の抜歯が必要な状態であった。下顎は両側側切歯および犬歯の4本のみが残存している状態であったが、本人は同部で咀嚼しているとのことであった。同歯は動揺度2~3度で、放置すれば脱落の恐れがある状態であったため、歯科医師と相談し下顎義歯を新製することとした。 残存する4歯については、著しい動揺を認めるものの咬合状態の急激な変化を避けるためにそのままの状態にて両側遊離端欠損の暫間義歯を作製することとなった。下顎義歯は使用経験がなかったが、歯科衛生士および施設スタッフが時間をかけて指導したことにより使用が定着した。その後歯科医師が、残存する4歯の抜歯、同部の増歯、抜歯部位の治癒後に最終義歯の作製を行なった。歯科衛生士が残存歯のSRPを行うことで、辺縁歯肉の炎症も消退した。初診時から口腔内の環境に大きな変化があったが、現在も義歯を用いて普通食を食べることができている。
【考察】
本症例は下顎の残存歯の脱落を初診時に予見していたため、現状維持ではなく段階を経て総義歯を作製したものである。暫間義歯の使用訓練を挟むことで、咬合状態を大きく変化させることなく義歯の使用に慣れることが可能であった。認知症により通常よりも慣れるための時間がかかるため、歯科衛生士が頻回に訪問し、施設スタッフにも情報を共有して訓練に長く時間を割く必要があるものと思われた。
全ての認知症患者に対し積極的な補綴治療が必要な訳ではないが、咬合状態の変化が予測される症例については早めの積極的な介入が有効な症例もあるものと思われた。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)