講演情報

[P-065]精神科病院歯科における医療安全対策―6年間の歯科ヒヤリ・ハット事例の分析―

○坪井 千夏1、中川 晋輔2、東 倫子3、小林 直樹1 (1. 特定医療法人 万成病院、2. 医療法人清心会 中川歯科医院、3. 岡山大学病院スペシャルニーズ歯科センター)
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【目的】
 近年,歯科領域においても医療事故に関する報告は多くなされるようになっており,事故報告やヒヤリ・ハット報告をもとに再発防止の取り組みが行われている。しかし,精神科病院歯科における報告は少ない。そこで本調査では,精神科病院における歯科診療で発生した事故報告,およびヒヤリ・ハット報告を分析し,精神科患者の課題とリスク要因を明らかにすることで,歯科医療の安全性向上と質的改善に寄与することを目的とした。
【方法】
 対象は,2019年1月から2024年12月に当院歯科で提出された事故報告書とした。これら報告書を日本医療機能評価機構の歯科ヒヤリ・ハット事例に沿って項目ごとに分類し,その内容を検討することとした。
【結果と考察】
 事故報告書は1001件であった。月別に報告件数を比較した結果,6月の報告件数が106件と最も多く,10.5%を占めていた。発生時間帯は午前の診療時間帯が45.6%を占めていた。事故レベル1~6の内,事故レベル1の割合が94.5%と大半を占めており,発生場所は歯科診療室が82.0%であった。事故内容としては「その他」が57.6%と最多であり,精神疾患患者に特有の突発的行動に対する安全管理の課題が多く含まれていた。さらに,患者情報管理の不備などのヒューマンエラーも確認された。スタッフ側の発生要因として「確認を怠った」が51.9%を占めており,次いで患者の病状・機能やリスク管理意識の低下が挙げられた。
 本調査の結果,医療事故の発生に時期的および環境的要因が関連していることが示唆された。発生月として6月が最も多かった点として,業務量の増加やスタッフの疲労,患者数の季節的変動が影響している可能性がある。また,午前中の事故が多い傾向は,業務開始直後の準備不足や繁忙時間特有の集中力低下が要因と考えられる。一方で,事故内容として「その他」の割合が多かったことは,精神科患者に特有の行動リスクや治療環境の特殊性を反映しており,日本医療機能評価機構の歯科ヒヤリ・ハット事例の分類に沿って項目分けすることの難しさを示している。患者情報の管理不備やヒューマンエラーの存在も改善課題であるが,今回の結果から,今後は,スタッフ教育や業務効率化に加え,精神科患者の行動リスクマネジメントを含めた安全管理体制の確立が不可欠と考えられる。
(COI開示:なし,万成病院倫理審査委員会承認番号:20251-1)