講演情報

[P-026]摂食機能療法専門歯科医師と補綴歯科専門医の連携により咀嚼嚥下が可能となった末期がん患者の一例

○並木 千鶴1,2,4、原 豪志4、文字山 穂瑞2、戸原 玄1、水口 俊介3 (1. 東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 摂食嚥下リハビリテーション学分野、2. 西東京歯科医院、3. 東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野、4. 衣笠あかり訪問歯科クリニック)
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【緒言・目的】高齢者の癌の罹病者数は増加している。がん患者の嚥下障害有病率は、他の専門分野で治療を受けている患者よりも高いとの報告がある。本症例では、摂食機能療法専門歯科医師と補綴歯科専門医の連携により咀嚼嚥下が可能となった末期がん患者の症例を報告する。
【症例および経過】77歳、男性。20XX年、胸部食道癌のため胸腔鏡下食道手術を行ったが、癌細胞の浸潤により末期がんの状態であった。術前より進行していたサルコペニアと食思不振による食事摂取量の低下から経口摂取困難となりCVポートを増設し自宅退院した。退院後、患者、家族の経口摂取希望があり言語聴覚士が、ゼリーを用いた経口摂取訓練をおこなっていた。患者よりスナック菓子が食べたいとの訴えがあり、主治医から嚥下機能評価の依頼があった。残存歯は3歯のみであり上顎は無歯顎であった。欠損歯に対して上下義歯が作製されていたが、不適合により使用されていなかった。嚥下内視鏡検査を行ったところ、嚥下反射は保たれていたが、咽頭に唾液の貯留および唾液誤嚥を認め、咽頭吸引が必要な状態であった。また口腔乾燥状態であり義歯は不適合のため、そのままでは使用不可能で、咬合支持がないため、咀嚼を要するものは難しい状態であった。サルコペニアではあるが嚥下関連筋群は機能しており、咀嚼機能の回復および上顎義歯の安定が、摂食嚥下機能を改善させ、さらなる経口摂取の種類や量の増加が期待できると判断し、補綴歯科専門医に義歯修理を依頼した。補綴歯科専門医が上顎の金属床義歯に対し、リラインおよび咬合調整を行った。その際には摂食機能療法専門歯科医師も立ち合い、調整後、その場で嚥下内視鏡検査を行った。咽頭に貯留していた唾液や痰が減少し、スナック菓子も食べられるようになり、粥や刻み食も経口摂取することが可能となった。
【考察】義歯調整による咀嚼機能の改善と、嚥下時に頭蓋に対する下顎が固定されたことで、嚥下関連筋群の収縮が改善され、唾液貯留の減少および咀嚼を要する食品の経口摂取が可能となった。専門職による治療および評価により患者や家族の希望がかなえられ、生活の質が改善された。がん患者の嚥下障害は様々な要因で起こり得るため、歯科医師の連携による口腔機能や嚥下機能の診断や補綴治療、摂食嚥下リハビリテーションが必要である。
(COI開示なし)
(倫理審査対象外)