講演情報

[P-042]摂食時の歯痛として発現した大後頭神経三叉神経症候群の一例

○上野 陽子1、佐々木 謙1,2、陣内 暁夫1 (1. 医療法人井上会 篠栗病院、2. 医療法人ささき歯科)
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【緒言】
 顔面痛を呈する疾患である大後頭神経三叉神経症候群(GOTS)は,大後頭神経への刺激が,三叉神経脊髄路核で結合する三叉神経に伝播し発症すると考えられ,原因は頸椎にあるとされている。多くは眼神経領域に疼痛を生じるが,今回、上顎神経領域で,主に摂食時に激しい歯痛として発現したGOTS症例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 当院併設介護老人保健施設に入所中の89歳女性。頸部脊柱管狭窄症,リウマチ性多発筋痛症で当院整形外科に通院。X年11月,施設職員より左上の奥歯を痛がって食事を摂らないと連絡があり,歯科受診となった。初診時,└7に自発痛はなく咬合痛を認め,食事の際は左頬部からこめかみまで疼痛が伝播するとのことであった。└7頬側に楔状欠損を認めるも,X線像に異常所見を認めず,咬合調整処置と鎮痛薬の処方を行った。2日後,施設職員より患者の摂食時の疼痛が著明で,歯科受診後,持続的に鎮痛薬を服用していると連絡があった。しかしながら,疼痛を説明する歯科的所見に乏しいためGOTSを疑い,当院内科に対診し漢方薬の処方を依頼した。内科より葛根加朮附湯、治打打撲一方が処方され内服したところ,翌日より疼痛の訴えが消失した。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
 本症例は摂食時に歯痛として発現するGOTSであった。一般に摂食時の歯痛症状は歯科疾患関連痛と考えられ,歯科を受診する。しかし原因は頸椎の異常である為,治療を行っても改善しないことが多い。さらに疼痛が改善しないため,抜髄や抜歯にいたることもある。過去に我々は,GOTSの診断に至らずに抜髄処置を行った苦い経験があり,その症例を契機にGOTSの病識を得た。また、本来GOTSの治療は主にペインクリニック領域であるため,診断後にスムーズに治療へ繋げるシステム構築等,課題も多い。歯痛を訴える患者に対し,おそらく最初に対応する歯科医療従事者をはじめ,各科の医療従事者にGOTSの病識が周知され,速やかな連携のもと,適切な診断・治療が行われることが望まれる。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)