講演情報

[P-044]嚥下造影検査で発見された義歯誤飲症例
〜精神疾患患者における多職種連携と包括的リスク管理の重要性〜

○小林 直樹1、東 倫子2、坪井 千夏1、水口 一3 (1. 特定医療法人 万成病院歯科、2. 岡山大学病院 スペシャルニーズ歯科センター、3. 岡山大学病院 歯科・口腔インプラント科部門)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【緒言・目的】
 可撤性義歯などの補綴装置の誤飲・誤嚥は,医療現場において身体的ならびに生命的リスクを伴う重要な問題である。特に精神疾患や認知症が背景にある場合にはそのリスクが高まることから,診査診断および補綴装置設計段階でのリスクへの配慮が大きく求められる。本研究では,嚥下造影検査(VF)を契機に義歯誤飲が発見された精神疾患患者の一症例を通じて,入院時および退院後の口腔ならびに咽頭におけるリスク管理の重要性を経験したため報告する。
【症例および経過】
 56歳,男性。知的障害。てんかんの既往あり。2024年7月より当院歯科にて嚥下評価と歯科治療を開始した。初診時初見では,流涎,発話不明瞭が認められた。同年10月に精密検査目的でVF検査を行ったところ,中咽頭に部分床義歯の嵌頓,義歯誤飲が判明した。そのため耳鼻咽喉科にて全身麻酔下での咽頭異物摘出術により義歯の摘出を行った。摘出された義歯は他院で作製されたものであった。術後,患者は流涎の軽減および発話の明瞭化によるQOL(Quality of Life)の向上が認められた。同時に,重大な合併症を回避することができ,安全性も確保できた。なお,本報告の発表については,患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
 咽頭部に嵌頓した異物が未発見の場合,窒息,誤嚥性肺炎,消化管壁の穿孔など,生命を脅かす重大な合併症を引き起こす可能性がある。本症例では,VF検査を契機に不顕性の義歯誤飲が発見され,精神科,放射線科,耳鼻咽喉科,歯科の多職種連携による迅速な対応にて,患者の身体的安全および精神・身体機能の安定が確保できた。一方で,入院時の診療情報に「下顎義歯紛失」の記載があったものの,歯科初診時や治療期間中に義歯誤飲を考慮できなかった点は,改善すべき課題として挙げられる。口腔内から消失した補綴装置の所在が不明な場合には,咽頭や消化管内へ嵌頓している可能性もあることを常に考慮し,場合によっては頭部CT検査や内視鏡検査といった包括的な診査の実施が望ましいと考えられた。さらに,義歯誤飲防止には,患者や医療従事者への啓発,定期的な補綴装置点検,識別性を高めるための放射線可視化材料の採用や誤飲防止機能の付加といった補綴装置設計段階での配慮が今後の課題として考えられた。(COI開示:なし)(万成病院 倫理委員会承認番号:20251-2)