講演情報

[P-046]超高齢の下顎無歯顎者に対して固定性インプラント義歯(いわゆるAll-on 4)を適用した1症例

○中居 伸行1,2、片山 昇2,3、赤坂 衣里1、村田 比呂司2 (1. なかい歯科、2. 長崎大学大学院歯科補綴学分野、3. 宇治山田歯科医院)
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【緒言・目的】 
 高齢の無歯顎者に対するアプローチの一つとして, Back-off strategy(Muller, 2016)が提案されているが, 健康な超高齢患者に対しての補綴のスタンダードは未だ確立されていない。一口に無歯顎者と言っても対向関係をはじめとする局所的な状況, 心身の全身的な状況は大きく異なる。しかし, 昨今, 心身ともに健康でありながら無歯顎となる超高齢者も珍しくない。今回はそうした患者に固定性インプラント義歯(いわゆるAll-on 4)を作製し良好な予後が認められた1症例を供覧する。
【症例および経過】
 女性 初診時 全身疾患 特になし 
 2010年(88歳) 初診 上顎は2011年にクロスアーチブリッジによって固定性補綴処置が行われた。
 2017年(95歳) 下顎前歯部は保存不可能なため全抜去し, 従来型総義歯が計画された。その結果, 吸着し安定した総義歯が作製されたが, 患者は不快感から総義歯の装着を拒否した。
 2018年(96歳) All-on 4が作製, 装着された。装着後一年程度は通院ができていたが, その後軽度の認知症および身体の衰弱から来院が困難となり, 訪問診療に切り替わった。その後, 3ヶ月に一回程度の訪問により介護者とともに口腔衛生管理に努めた。毎回の評価では必ずしも非常に良好な口腔衛生の状態ではなかったが, 下顎のAll-on 4周辺へのプラーク堆積は少なく, インプラント周囲疾患, およびインプラント辺縁骨の喪失もほとんど認められなかった。
 2023年(100歳) 摂食に関しては最期までほぼ普通食のまま, 老衰にて逝去した。 
【考察】 
 一般的に高齢者に対するインプラント治療, 特に下顎無歯顎に対してはMcGillコンセンサス(Feine, 2003)では, インプラントオーバーデンチャーが第一選択として推奨されている。しかしながら, 患者の好み, 局所・全身状態を総合的に評価して受療可能な場合には, 超高齢者であってもAll-on 4も選択肢となりうると考えた。さらには, 本症例のように患者の心身面に虚弱が生じた際, むしろ可撤式補綴装置の使用した際に生じる問題(着脱困難, つけ忘れ, 口腔内の不衛生)が最小化される可能性が示唆された。(COI 開示:なし, 倫理審査対象外)