講演情報
[P-048]処置に難渋したくも膜下出血後遺症を有する訪問患者の習慣性顎関節脱臼の1例
○山口 喜一郎1,2、藤井 航2、二宮 静香1 (1. 医療法人博仁会 福岡リハビリテーション病院歯科、2. 九州歯科大学附属病院 口腔リハビリテーションセンター)
【緒言・目的】
意思疎通が困難な患者における顎関節脱臼は,整復が困難であるだけではなく,保存療法のみでは脱臼を繰り返し,習慣性に移行し,難渋することがある。今回,訪問診療で口腔健康管理を行っているくも膜下出血後遺症患者において,顎関節脱臼が反復し,固定法に難渋した症例を経験したので報告する。
【症例および経過】
患者は84歳女性。既往歴にくも膜下出血があり,意思疎通は困難,栄養管理は胃瘻であった。水頭症に対しV-Pシャントが挿入されていた。2024年1月に右側顎関節脱臼を認め,徒手的整復にて経過観察を行っていた。5月頃,脱臼が頻発したため,ワンタッチ顎バンド(ソフラⓇ顎バンテージⅡ,竹虎,神奈川県)を使用したが,前方にずれ外れるなど,過開口に対する抑制が困難であった。そこで,顎外固定装置(歯科口腔外科AGOキャップ™,パルメディカル,東京都)へ変更した。しかし,装着部の褥瘡を発症し,使用の中断が余儀なくされた。手術に関して,某大学の口腔外科に対診を行ったが,受け入れは困難との回答であった。創傷被覆材(ハイドロサイトプラス,スミス・アンド・ネフュー,東京都)を使用するなど,固定方法を工夫し,褥瘡予防を行ったが,1週間程度経過すると継続した圧迫による顔面の浮腫が生じるなど,1週間以上の使用は困難であった。その後も,頻回に脱臼を繰り返したが,訪問診療のため脱臼後はすぐに対応ができず,固定をしても毎日の確認が不可能であるため管理に難渋した。管理を継続中に,他の病院歯科口腔外科による受け入れが可能となったため,関節結節切除術の施行となった。
なお,本報告の発表について代諾者の夫から文書による同意を得ている。
【考察】
下顎の不随意運動時に自己運動抑制ができず顎関節脱臼を生じやすい脳血管障害患者では,何度も脱臼を反復し,習慣性に移行する頻度が高くなる。本症例では,胃瘻のため脱臼による栄養管理への影響は認めなかったが,非脱臼時と比較して口腔乾燥が著明となり,剥離上皮膜の付着も認めるなど肺炎リスクが高い状態であった。様々な固定方法を検討したが,確実な再発抑制には至らなかった。全身麻酔に対するリスクが高ければ,手術の受け入れもより難しくなると考えられる。習慣性に移行する可能性を考慮し,観血的治療も視野に含めて、日々連携を行うことの重要性が示唆された。(COI開示なし)(倫理審査対象外)
意思疎通が困難な患者における顎関節脱臼は,整復が困難であるだけではなく,保存療法のみでは脱臼を繰り返し,習慣性に移行し,難渋することがある。今回,訪問診療で口腔健康管理を行っているくも膜下出血後遺症患者において,顎関節脱臼が反復し,固定法に難渋した症例を経験したので報告する。
【症例および経過】
患者は84歳女性。既往歴にくも膜下出血があり,意思疎通は困難,栄養管理は胃瘻であった。水頭症に対しV-Pシャントが挿入されていた。2024年1月に右側顎関節脱臼を認め,徒手的整復にて経過観察を行っていた。5月頃,脱臼が頻発したため,ワンタッチ顎バンド(ソフラⓇ顎バンテージⅡ,竹虎,神奈川県)を使用したが,前方にずれ外れるなど,過開口に対する抑制が困難であった。そこで,顎外固定装置(歯科口腔外科AGOキャップ™,パルメディカル,東京都)へ変更した。しかし,装着部の褥瘡を発症し,使用の中断が余儀なくされた。手術に関して,某大学の口腔外科に対診を行ったが,受け入れは困難との回答であった。創傷被覆材(ハイドロサイトプラス,スミス・アンド・ネフュー,東京都)を使用するなど,固定方法を工夫し,褥瘡予防を行ったが,1週間程度経過すると継続した圧迫による顔面の浮腫が生じるなど,1週間以上の使用は困難であった。その後も,頻回に脱臼を繰り返したが,訪問診療のため脱臼後はすぐに対応ができず,固定をしても毎日の確認が不可能であるため管理に難渋した。管理を継続中に,他の病院歯科口腔外科による受け入れが可能となったため,関節結節切除術の施行となった。
なお,本報告の発表について代諾者の夫から文書による同意を得ている。
【考察】
下顎の不随意運動時に自己運動抑制ができず顎関節脱臼を生じやすい脳血管障害患者では,何度も脱臼を反復し,習慣性に移行する頻度が高くなる。本症例では,胃瘻のため脱臼による栄養管理への影響は認めなかったが,非脱臼時と比較して口腔乾燥が著明となり,剥離上皮膜の付着も認めるなど肺炎リスクが高い状態であった。様々な固定方法を検討したが,確実な再発抑制には至らなかった。全身麻酔に対するリスクが高ければ,手術の受け入れもより難しくなると考えられる。習慣性に移行する可能性を考慮し,観血的治療も視野に含めて、日々連携を行うことの重要性が示唆された。(COI開示なし)(倫理審査対象外)