講演情報

[P-050]持続作用型非定型抗精神病薬が嚥下機能に与えた影響〜嚥下内視鏡検査から見えた1症例〜

○今田 良子1,3、松原 ちあき1,2,3、吉澤 彰1,3,5、山口 浩平1、日下 輝夫3,4、坂東 誉子3、戸原 玄1 (1. 東京科学大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野、2. 静岡県立大学短期大学部歯科衛生学科、3. 医療法人社団東京愛成会高槻病院、4. 経済産業省大臣官房会計課厚生企画室、5. 医療法人社団亮仁会那須中央病院)
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【緒言・目的】 
抗精神病薬はその副作用として嚥下機能に影響を及ぼす事は広く知られているが,持続作用型非定型抗精神病薬は副作用が少ないとされ広く用いられている。しかしながら実際には錐体外路症状を含む嚥下機能低下を引き起こす可能性がある。本症例では,持続作用型非定型抗精神病薬の投与が嚥下機能低下と関連した可能性を検討したので報告する。
【症例および経過】
66歳男性,既往歴に統合失調症,誤嚥性肺炎がある。202X年,誤嚥性肺炎を発症し約2週間禁⾷となったが,炎症症状改善され主治医より⾷事開始可否に対する嚥下評価依頼のため当科初診となった。初診時,座位保持が困難,ベッド上リクライニング角度45°で検査を開始した。嚥下内視鏡検査(以下VE)の結果,咽頭収縮⼒は保たれていたが、嚥下反射惹起遅延,易疲労性を認めた為、栄養補助食品の開始を指導した。並行してADL向上の為ベッドアップの時間延⻑を指導した。その後、徐々に摂取量を増加。X年+2ヶ⽉で3⾷ペースト⾷を摂取すること,またリクライニングの⾞椅⼦に移乗が可能となった。経口確立後,VE検査では誤嚥認めなかったものの,1 ヶ⽉に数⽇は37℃を超える微熱を確認した。発熱の原因として持続作用型抗精神病薬の投与を⾏なってからの継時的な変化が咽頭にあるのではないかと考え,投与後約3週間前後でVEを⾏なっていたが,投与から5 ⽇後の検査に変更した。すると咽頭収縮⼒の低下が顕著に現れ咽頭残留量が増え,披裂からペースト⾷やとろみ⽔分の垂れ込み,誤嚥を認め熱源の特定に至った。精神科医師と相談し持続作用型非定型抗精神病薬の投与量を減量。現在は発熱もなく経過している。
【考察】
 抗精神病薬は精神疾患の治療に⾼い効果を⽰す⼀⽅,副作⽤が問題となってきた。錐体外路症状を初め副作⽤の少ない薬剤として⾮定型抗精神病薬が開発され,統合失調症の治療においては,第⼀選択薬に位置づけられている。持続作用型非定型抗精神病薬に対する錐体外路症状の報告は少なく,その影響については十分認識されていない場合もある。本症例ではVEを通して持続作用型非定型抗精神病薬投与後の変化を適切に評価し,誤嚥リスクの上昇が示唆された。精神科領域においても、VEは嚥下機能の客観的評価に有用であり,活用する事により適切な治療方針の決定や薬剤調整に寄与する可能性があると考えられた。(COI 開示:なし)(倫理審査対象外)