講演情報

[P-054]頬杖嚥下により座位での食事が可能となり外食の希望を叶えた症例

○江角 明日香1、柳田 陵介1、森豊 理英子1、長澤 祐季1、吉見 佳那子1、山口 浩平1、中川 量晴1、戸原 玄1 (1. 東京科学大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野)
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【目的】
 嚥下障害において食道入口部の通過障害をきたす場合には,一側嚥下を指導されることが多いものの,自己摂取が困難であるほかベッド上での食事が必要となる。今回,歯科訪問診療において食形態の調整と共に食事時の姿勢を頬杖嚥下へと移行したことで,座位での自己摂取が可能となり,外食の希望を叶えた症例を報告する。
【症例および経過】
 78歳,男性。糖尿病,双極性障害,Forestier病,睡眠時無呼吸症候群の既往あり。初診時の介護度は要介護1。2023年6月に双極性障害にて精神科病棟に入院。退院翌日に発熱し誤嚥性肺炎と診断され急性期病院に入院し,2024年2月に胃瘻造設となった。回復期病棟への転棟を経て4月に退院。言語聴覚士,家族からの嚥下機能評価の依頼により,5月より当科の歯科訪問診療を開始した。初診時は左下完全側臥位にて,ベッド上でゼリーを用いた直接訓練を行うのみであった。外食がお好きだったという生活背景を聴取し,外食を目標とした。言語聴覚士と連携しながら直接訓練および間接訓練を指導し,頬杖嚥下や咳払いなどの代償法を取り入れたことにより,座位によるお楽しみ程度の経口摂取が可能となった。さらに,ペースト食やとろみ水など摂取できる食形態が増えた。家族が協力的であり、手作りのペースト食やクリスマスケーキのクリームといった季節感を感じる食事を楽しんでいる。初診時と当科介入から9ヶ月後をKTバランスチャートで比較すると,包括的評価13項目のうち8項目の点数が向上した。特に姿勢・耐久性と活動においては4点,口腔状態と食事動作は3点と大幅な向上を認めた。座位での経口摂取,さらに短時間であれば歩行が可能になったことで,外食を叶えることができた。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
 本症例においては頬杖嚥下と代償法により座位での経口摂取が可能になったことで,外食の希望が叶った。安全な外食のために,嚥下食提供レストランが掲載されている医療資源マップの活用で家族の外食への不安も軽減された。加えてペースト食やとろみ水を摂取できるようになったことで,食事の幅が広がり患者の食欲が亢進し,食事の質も向上した。異なる食形態であっても家族や友人と同じ食卓を囲むことで,患者と家族の幸福度を向上させることができたと考えた。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)