講演情報

[P-056]訪問歯科診療においてIOSを用いずにCAD/CAM複製義歯を製作した症例

○中田 晴香1、Thu Ya Min1、村上 和裕1、堀 一浩1 (1. 新潟大学大学院医歯学総合研究科 包括歯科補綴学分野)
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【緒言・目的】
 要介護高齢者診療において,義歯再製時にはできるだけ現義歯の形態を変えない工夫が薦められ,しばしば複製義歯が用いられる。近年,歯科領域におけるデジタル化の進展に伴い,CAD/CAMを利用した複製義歯が報告されている。しかし,訪問歯科診療において運搬できる器材の量は限られており,口腔内スキャナー(IOS)などを持ち込むことは難しい。そこで我々は,IOSを訪問現場に持参せずともCAD/CAMを利用した複製義歯の製作が可能な手法を考案した。今回訪問歯科診療において,本法により製作した複製義歯を用いて咬合圧印象を行い,良好な経過が得られたため報告する。
【症例および経過】
 81歳男性。下顎義歯の易脱離を主訴に訪問歯科診療を希望された。脳梗塞,高血圧,前立腺肥大の既往があり,特別養護老人ホームに入所中であった。口腔内は└7FMC,7654321⏋⎾3の残根のほかは欠損しており,上顎部分床義歯と下顎全部床義歯が装着されていた。下顎義歯は床縁が短く維持安定は不良であり,義歯装着時の咬合に偏位を認めた。まず,下顎義歯を粘膜調整材にて可及的に床縁延長・暫間裏装を行った。次に,下顎義歯の粘膜面・研磨面を,アルジネート印象材を用いてそれぞれ印象採得し,石膏模型を製作した。ラボスキャナー(S-WAVEスキャナー E3 RED,松風社)にて模型をスキャンし,CAD/CAM(Dental Manager Premium 2023,3Shape社)により両者を重ねあわせ,複製義歯を製作した。上顎は通法通りに印象採得を行い,上顎は咬合床,下顎は複製義歯を使用して咬合圧印象を行った。その後蝋義歯試適を経て新義歯を装着した。義歯製作過程および装着後の調整を通して現在まで大きな問題はなく,臨床経過は良好である。本発表に際し,患者本人から口頭および文書により承諾を得た。
【考察】
 複製義歯製作前に現義歯の床縁延長・暫間裏装を実施したことで,可及的に良好な義歯床形態と粘膜面を複製義歯に反映させた. また,現義歯装着時には咬合の偏位を認めたが,咬合圧印象時に上顎は複製義歯ではなく咬合床を用いたことで,咬合平面・顎間関係の調整が容易となり,偏位のない咬合を採得できた。現義歯の形態を活かした新義歯製作により患者の新義歯に対する使用感は良好であり,咬合圧印象により良好な義歯の安定を得ることができた。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)