講演情報

[P-096]都市部地域住民における口腔健康因子と心不全マーカーの変化との関連性-吹田研究―

○前田 さおり1、小久保 喜弘1、高阪 貴之2、池邉 一典2、小野 高裕3 (1. 国立循環器病研究センター 健診部、2. 大阪大学大学院歯学研究科 有床義歯補綴学・高齢者歯科学講座、3. 大阪歯科大学高齢者歯科学講座)
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【目的】
 高齢者は循環器病の終末像である心不全の罹患率が高く口腔機能が低下していることも多いが,両者の関連性は明らかではない。我々は心不全の病態を反映する脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を用いて心不全リスク因子と口腔健康との関連について横断調査を行い,咀嚼関連因子は軽微なBNPの上昇に関連している可能性があることを報告した。本研究では口腔健康因子とBNPの変化との関連性について検討した。
【方法】
 吹田研究のデータベースから2008年4月から2014年6月に基本健診および歯科検診を受けた者を抽出し,日本心不全学会予防委員会のステートメントを参考に研究参加者のBNPレベルを2群(正常群:BNP<35pg/mL,心不全リスク群:BNP≥35pg/mL)に分類した。正常群927名(男性390名,女性537名,平均年齢64.3歳)を分析対象にその後のBNPレベルの推移を追跡した。口腔健康因子は機能歯数(低値:20歯未満),咬合支持(不良:アイヒナー指数 BまたはC),歯周状態(不良:CPI3以上),最大咬合力(低値:デンタルプレスケールⅠ,200N未満),咀嚼能率(低値:咀嚼能力測定用グミゼリー,咬断片表面積増加量の下位25%),歯科受診状況(不良:定期受診なし)を評価した。BNPレベルを目的変数,初回健診時の各口腔健康因子を説明変数とし,ロジスティック回帰分析(共変量;年齢,性,肥満,高血圧,脂質異常,糖尿病,心疾患,腎機能低下,喫煙,飲酒)を実施した。
【結果と考察】
 追跡調査時のBNPレベルは正常群:745名(80.4%),心不全リスク群:182名(19.6%)であった。ロジスティック回帰分析の結果,機能歯数低値(OR:1.71,95%CI:1.04-2.83,P=0.036),最大咬合力低値(OR:1.67,95%CI:1.03-2.73,P=0.040)と心不全リスク群との間に有意な関連を認めた。今回の縦断解析の結果は横断解析時と同様の傾向が認められており,口腔機能の低下は共通の危険因子などと併せて軽微なBNP上昇に関連している可能性が示唆された。今後は食行動や生活習慣などの心機能保護因子との関係を含めてさらに検討していく予定である。
(COI 開示:なし)
(国立循環器病研究センター倫理審査委員会承認番号:R21011-8)