講演情報
[P-098]口腔機能に配慮した義歯設計および口腔機能訓練を行い,口腔機能を改善した超高齢患者の一例
○鈴木 宏樹1 (1. 医療法人福和会別府歯科医院)
【緒言・目的】
高齢患者においては,口腔機能の低下や口腔周囲の加齢変化をしばしば認める。そのような患者が歯を欠損した場合,義歯による形態的回復を行ったとしても,口腔機能の回復までは達成できないことがある。今回,超高齢患者に対して,口腔周囲の加齢変化に配慮した形態で義歯を新製し,さらに口腔機能訓練を行うことで口腔機能が改善した症例を経験したのでその概要を報告する。
【症例および経過】
患者は93歳女性。上下総義歯を使用していたが,下顎義歯を紛失したため,新義歯作製を希望され当院を受診した。旧義歯紛失前は下顎義歯が不安定であったとの訴えがあり,口腔内を診察したところ,口輪筋の伸縮性が低下して下唇圧が強い状態であり,もともとの上下顎顎間関係もⅡ級であったため,通常の人工歯排列では義歯の安定が得られないことが想定された。義歯の新製に際しては配列位置に関して歯科技工士とともに検討し,下顎前歯部を通法通りの配列位置である歯槽頂付近よりやや後方の位置に排列し,下唇圧の影響を受けにくい形態とした。義歯新製後,義歯自体は口腔内で安定して咀嚼できていたものの,食事に関して著明な改善は認めなかった。そこで口腔機能精密検査を行ったところ,口腔衛生状態・咬合力・舌圧・舌口唇運動機能・咀嚼能力の5項目で機能低下を認め,口腔機能低下症の診断となった。歯科衛生士とともに口腔機能訓練を指導し,口腔機能の回復を図ることにした。訓練を開始して6か月後には口腔機能低下症を脱した。さらに,義歯新製前と比較して摂取可能食品の種類が増えた。
【考察】
義歯治療の成果は,使用時の疼痛の有無だけで判断されがちであるが,義歯が実際に機能しているかどうかは疼痛の有無だけでは判断できない。口腔機能が低下しており,さらに口腔周囲の加齢変化がある患者に対しては通法通り作成した義歯では食事摂取量の増加や食形態の改善につながらないことも多く,個々の状況に合わせた義歯を作製することが必要であると考えている。また,義歯治療に際して口腔機能の評価を行うことで,低下した口腔機能へのアプローチも可能となる。超高齢者においても,口腔機能を考慮した義歯治療に加え,適切な口腔機能訓練の指導を行うことで食事摂取量の改善につながる可能性が示唆された。
なお, 本報告の発表について患者本人から同意を得ている。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)
高齢患者においては,口腔機能の低下や口腔周囲の加齢変化をしばしば認める。そのような患者が歯を欠損した場合,義歯による形態的回復を行ったとしても,口腔機能の回復までは達成できないことがある。今回,超高齢患者に対して,口腔周囲の加齢変化に配慮した形態で義歯を新製し,さらに口腔機能訓練を行うことで口腔機能が改善した症例を経験したのでその概要を報告する。
【症例および経過】
患者は93歳女性。上下総義歯を使用していたが,下顎義歯を紛失したため,新義歯作製を希望され当院を受診した。旧義歯紛失前は下顎義歯が不安定であったとの訴えがあり,口腔内を診察したところ,口輪筋の伸縮性が低下して下唇圧が強い状態であり,もともとの上下顎顎間関係もⅡ級であったため,通常の人工歯排列では義歯の安定が得られないことが想定された。義歯の新製に際しては配列位置に関して歯科技工士とともに検討し,下顎前歯部を通法通りの配列位置である歯槽頂付近よりやや後方の位置に排列し,下唇圧の影響を受けにくい形態とした。義歯新製後,義歯自体は口腔内で安定して咀嚼できていたものの,食事に関して著明な改善は認めなかった。そこで口腔機能精密検査を行ったところ,口腔衛生状態・咬合力・舌圧・舌口唇運動機能・咀嚼能力の5項目で機能低下を認め,口腔機能低下症の診断となった。歯科衛生士とともに口腔機能訓練を指導し,口腔機能の回復を図ることにした。訓練を開始して6か月後には口腔機能低下症を脱した。さらに,義歯新製前と比較して摂取可能食品の種類が増えた。
【考察】
義歯治療の成果は,使用時の疼痛の有無だけで判断されがちであるが,義歯が実際に機能しているかどうかは疼痛の有無だけでは判断できない。口腔機能が低下しており,さらに口腔周囲の加齢変化がある患者に対しては通法通り作成した義歯では食事摂取量の増加や食形態の改善につながらないことも多く,個々の状況に合わせた義歯を作製することが必要であると考えている。また,義歯治療に際して口腔機能の評価を行うことで,低下した口腔機能へのアプローチも可能となる。超高齢者においても,口腔機能を考慮した義歯治療に加え,適切な口腔機能訓練の指導を行うことで食事摂取量の改善につながる可能性が示唆された。
なお, 本報告の発表について患者本人から同意を得ている。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)