講演情報

[P-108]舌圧を増強させる舌蓋押し当て訓練は咀嚼嚥下機能を改善する

○並木 千鶴1,2,3、原 豪志2,3、柳田 陵介1、奥村 拓真4、小林 健一郎2、谷口 裕重5、戸原 玄1 (1. 東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 摂食嚥下リハビリテーション学分野、2. こばやし歯科クリニック、3. 衣笠あかり訪問歯科クリニック、4. 北海道大学大学院歯学研究院 口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室、5. 朝日大学歯学部摂食嚥下リハビリテーション学分野)
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【目的】
 歯数の減少や口腔周囲筋の機能が低下すると咀嚼障害を招く。高齢者における咀嚼障害は低栄養やフレイルと関連するためその対応は急務である。我々は、過去に舌を口蓋に押し当てる訓練(tongue pressure resistance training: TPRP) によって、舌圧や舌の巧緻性の向上のみならず、液体摂取時における咽頭期の嚥下動態が改善することを報告した。しかし、同訓練が咀嚼機能に及ぼす訓練は不明である。本研究は、咀嚼動態の観察が可能な嚥下造影検査(VF)を用いて、TPRPが咀嚼嚥下に及ぼす影響を調査したので報告する。
【方法】
 対象は食事困難を自覚した高齢者のうちVFにより食塊形成不良を認めた高齢者16名(75.5歳±9.4)とした。訓練は舌を口蓋に強く押し当てる運動と、その後の休憩を10秒間ずつ行うことを5回繰り返すことを1日2回行い、1か月間継続した。咀嚼の評価は、VFにてバリウムケーキ4gを咀嚼した際の食塊形成能力と、咀嚼し始めてから嚥下するまでの時間(咀嚼時間)、咀嚼回数、食塊形成中の開口量を計測した。その他舌圧、オーラルディアドコキネシス(ODKR)のtaとkaを計測し、舌骨上筋群の評価はVFを用いて嚥下時の舌骨の変位量と咽頭残留量を計測した。統計はウィルコクソンの符号順位検定を用いて訓練前後の比較を行った。
【結果と考察】
 訓練後、舌圧(r=0.83)、ODKRのta(r=0.53)とka(r=0.67)、舌骨の前方変位量(r=0.62)、咽頭残留量(r=0.77)の他、食塊形成能力(r=0.79)が有意に向上した(r:効果量)(p<0.05)。その他、咀嚼時間(r=0.63)が有意に短縮し、食塊形成中の開口量(r=0.52)が有意に増加した(p<0.05)。舌圧発生には舌骨上筋群が関与していることから、TPRTは嚥下機能を改善させるが、舌と舌骨上筋群の機能改善が、舌による食物の凝集や食塊保持力を高めたことで食塊形成能力が改善したと考えられた。よってTPRTは咽頭期における嚥下動態だけでなく咀嚼嚥下機能の改善にも効果があることが示唆された。
(COI開示:なし)
(東京医科歯科大学歯学部倫理審査委員会D2022-045)