講演情報

[BS4]高齢者の根面う蝕の予防とフッ化物の応用

○高柳 篤史1 (1. 東京歯科大学  客員教授)
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【略歴】
1989年 東京歯科大学卒業
1989年 川崎市作間歯科医院勤務(1992年まで)
1996年 東京歯科大学大学院歯学研究科修了(衛生学専攻)
1996年 東京歯科大学衛生学講座研究助手
1998年 高柳歯科医院(埼玉県・幸手市)・勤務
2013年 日本大学松戸歯学部障害者歯科学講座 兼任講師
2014年 東京歯科大学衛生学講座 客員准教授
2021年 幸手市歯科医師会・会長(20257年3月まで)
2022年 高柳歯科医院・院長(現在に至る)
2023年 東京歯科大学衛生学講座 客員教授
近年の若年者のう蝕は急激に減少した。しかしながら、成人のう蝕においては、依然として有病者率が高い。とりわけ、高齢者のう蝕有病者が増加していることは、現在における大きな課題の一つである。80歳で50%以上において、20歯以上の歯が保たれるようになるなど、高齢者においては多くの歯が保たれるようになった。高齢になっても、多く歯が保たれていることは、食生活において望ましいことである。一方で、多くの歯が保たれていることで、口腔環境を良好に保つために、より丁寧なケアが必要になる。高齢者では、歯肉の退縮により歯根が露出していることが多い。そして、唾液分泌の低下や口腔周囲筋機能の低下などによる口腔環境の悪化によって、根面う蝕のリスクが極めて高くなる。
エナメル質の酸による脱灰の臨界はpH4.5程度であるが、象牙質の臨界pHは6.0~6.7程度で、エナメル質よりも耐酸性が低く、酸に溶けやすい性質がある。象牙質はエナメル質に比べて無機質の割合が少なく、さらにアパタイトの結晶が小さいことなどによるものである。また、エナメル質の有機質は1%程度であるのに対して、象牙質は約20%存在する。そのため、象牙質はエナメル質に比べて、硬度が低くなるだけでなく、タンパク分解活性によっても、根面う蝕が進行する。また、象牙質の表面にはエナメル質と異なり、細管構造が認められる。そして、象牙質では細管を通じて象牙質内部に細菌が侵入したり、酸が入り込んでくる。さらに、酸による脱灰によって残った有機質による構造物の内部に細菌が侵入して留まり、さらなる根面う蝕の進行の原因になる。このようなことから根面う蝕は歯冠部のエナメル質う蝕と比べて、進行が速いのが特徴となる。
そのため、高齢者に多発する根面齲蝕は在宅における口腔管理においても、発生の予防と進行の抑制には大変苦慮することも少なくない。根面う蝕も歯冠部う蝕と同様にフッ化物を利用することで、リスクを下げることができる。しかしながら、象牙質はエナメル質に比べて、カルシウムが少ないために、フッ化物が留まりにくい。とりわけ、カルシウム濃度が低下してしまっている脱灰部位においてはなおさらである。また、唾液分泌低下が認められる場合には再石灰化に必要なカルシウムが十分に供給されないために、たとえ、フッ化物があっても、再石灰化しにくい。このようなことから、高齢者の根面う蝕の予防においては、エナメル質に使用する際よりもより高濃度のフッ化物を用いることが必要となる。そこで今回、高齢者に多発する根面齲蝕に対して、フッ化物をどのように使用していったらよいのかをセルフケアとプロフェッショナルケアの両面から解説する予定である。