講演情報

[認定P-5]多数歯う蝕により咬合崩壊を呈している有病高齢者に対し入院管理で対応した症例

○大岩 大祐1,2、小野 智史1 (1. 日之出歯科真駒内診療所、2. 札幌医科大学公衆衛生学講座)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【緒言】
 75歳以降の高齢者は歯科外来通院率が低下することが報告されており、8020運動の達成率増加と相まって、より複雑な口腔健康管理を必要とする高齢者が増えていると思われる。咬合崩壊している高齢者に対して入院管理で対応した症例を報告する。本患者は、高齢であることに加えて、施設入所者であること、心不全をはじめとする併存疾患に配慮する必要があった。
【症例および経過】
 症例は87歳の女性で、下顎義歯破折を主訴に当院を受診された。多数歯う蝕により咬合崩壊をきたしており、義歯の修理・新製のみでは対応困難であった。併存疾患は、慢性心不全(NYHA:1度)、慢性心房細動(Xa阻害薬を内服)、高血圧症(入院時血圧:144/90 mmHg、Caブロッカーとβ1ブロッカーを1剤ずつ内服)、慢性腎臓病(G2:GFR:63.7 mL/分/1.73m2)、盲腸がん術後、脂質異常症、両側開放隅角緑内障を有していた。抜歯および補綴処置を予定し、術後の止血および全身疾患増悪防止のために入院下での処置を行った。全身管理のために入院11日間計4回の静脈内鎮静法管理を行い、抜歯(計8本)および補綴物装着(鋳造冠7本、上下部分義歯)までを完了した。その後さらに5日間、補綴物の調整を行い退院とした。退院後は、施設への訪問歯科診療にて口腔健康管理を継続している。本発表に際して、患者本人および家族から同意を得た。
【考察】
 周術期のストレス過多による心不全の増悪予防を目的に静脈内鎮静法下に抜歯を行ったことで、心疾患が増悪することなく経過したと考えた。また、Xa阻害薬を継続して局所止血での対応としたことで新たな梗塞を発生させることなく歯科治療を完了できた。抜歯をまとめて短期間に行うことで、術後の抗菌薬投与期間が最小限となるように配慮した(第一選択はペニシリン系としたが、追加処方の場合はマクロライド系に変更する予定であった)。鎮痛剤はアセトアミノフェンで対応した。どちらも腎機能の悪化を起こすことなく管理できた。施設入所者に対する口腔健康管理も重要で、退院後は訪問歯科診療へと移行することで患者の口腔機能を維持していくことにも寄与できていると思われた。本発表に際して報告すべきCOIはない。日之出歯科倫理審査委員会より付議不要の返答があった。