講演情報
[認定P-8]重度の咀嚼機能障害に対する義歯治療後にアルツハイマー型認知症が発症したため口腔健康管理に移行した症例
○山口 哲史1、服部 佳功1 (1. 東北大学大学院歯学研究科リハビリテーション歯学講座加齢歯科学分野)
【緒言・目的】
初診時から体重減少と神経症状が認められたため速やかに咀嚼機能の回復を図り,認知症発症後は補綴処置を中断し認知症の特性を考慮した口腔健康管理に移行した1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
75歳,女性。特筆すべき全身疾患は無いが低体重であった(BMI: 16)。入れ歯が痛むため食事が出来ないことを主訴に,家族に付き添われて来院した。下顎は全部床義歯,上顎は部分床義歯を使用していた。下顎義歯は著しく支持と維持安定とを欠き,義歯が浮き上がるのを口唇と舌で抑え込む動作を認めた。咀嚼能力(グルコース法,56mg/dL)と最大咬合力(プレスケール1,71N)はともに低値であった。残存歯には複数の問題があったが,味覚異常や体重減少が認められたため咀嚼機能回復を最優先することとした。形態を改善した下顎義歯を治療用義歯として口唇や舌の習癖を是正したのち,上下顎義歯を新製した。咀嚼能力は118 mg/dL,最大咬合力は160Nに改善し,体重は3kg以上増加した。その後,根管治療等を進めていたところ神経症状が増加し,当院老年科の検査によって軽度認知障害であることが判明した(MMSE: 23点)。その後半年で初期ADとなり,神経症状(口腔セネストパチー)が急増したため積極的な処置を中断し,患者の訴えを傾聴しながら口腔健康管理に移行した。アリセプトD錠とメマリーOD錠が処方されていたが、2年後には中等度AD(FAST Stage5)となり,義歯の痛みが再発し体重が3kg減少した。下顎顎堤に深い潰瘍があり家族に確認したところ,日中に義歯で食い縛りを行っている可能性が示唆されたため,義歯着脱の管理を介護者に依頼した。1週間程度で潰瘍は治癒し体重も回復した。現在は先行期の問題により再び体重減少が認められるが,義歯による咀嚼が可能な状態を維持している(101 mg/dL)。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
体重減少の存在を考慮し速やかな咀嚼機能回復を第一目標として治療を行ったことで、認知症を発症する前に十分な機能回復を達成し、栄養状態を改善することが出来た。早期に咀嚼機能回復を達成したことは、認知症発症後に口腔健康管理によって咀嚼機能を維持する上でも重要であったと考えられる。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)
初診時から体重減少と神経症状が認められたため速やかに咀嚼機能の回復を図り,認知症発症後は補綴処置を中断し認知症の特性を考慮した口腔健康管理に移行した1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
75歳,女性。特筆すべき全身疾患は無いが低体重であった(BMI: 16)。入れ歯が痛むため食事が出来ないことを主訴に,家族に付き添われて来院した。下顎は全部床義歯,上顎は部分床義歯を使用していた。下顎義歯は著しく支持と維持安定とを欠き,義歯が浮き上がるのを口唇と舌で抑え込む動作を認めた。咀嚼能力(グルコース法,56mg/dL)と最大咬合力(プレスケール1,71N)はともに低値であった。残存歯には複数の問題があったが,味覚異常や体重減少が認められたため咀嚼機能回復を最優先することとした。形態を改善した下顎義歯を治療用義歯として口唇や舌の習癖を是正したのち,上下顎義歯を新製した。咀嚼能力は118 mg/dL,最大咬合力は160Nに改善し,体重は3kg以上増加した。その後,根管治療等を進めていたところ神経症状が増加し,当院老年科の検査によって軽度認知障害であることが判明した(MMSE: 23点)。その後半年で初期ADとなり,神経症状(口腔セネストパチー)が急増したため積極的な処置を中断し,患者の訴えを傾聴しながら口腔健康管理に移行した。アリセプトD錠とメマリーOD錠が処方されていたが、2年後には中等度AD(FAST Stage5)となり,義歯の痛みが再発し体重が3kg減少した。下顎顎堤に深い潰瘍があり家族に確認したところ,日中に義歯で食い縛りを行っている可能性が示唆されたため,義歯着脱の管理を介護者に依頼した。1週間程度で潰瘍は治癒し体重も回復した。現在は先行期の問題により再び体重減少が認められるが,義歯による咀嚼が可能な状態を維持している(101 mg/dL)。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
体重減少の存在を考慮し速やかな咀嚼機能回復を第一目標として治療を行ったことで、認知症を発症する前に十分な機能回復を達成し、栄養状態を改善することが出来た。早期に咀嚼機能回復を達成したことは、認知症発症後に口腔健康管理によって咀嚼機能を維持する上でも重要であったと考えられる。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)