講演情報

[認定P-9]訪問診療で対応した薬剤関連顎骨壊死の一症例

○神村 崇悟1,2、柏崎 晴彦1 (1. 九州大学大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 高齢者歯科学・全身管理歯科学分野、2. 医療法人 福和会 別府歯科医院)
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【背景・目的】
主に悪性腫瘍や骨粗鬆症に使用する骨吸収抑制剤を投与されている患者において、薬剤関連顎骨壊死にしばしば遭遇する。過去の研究やポジションペーパーによる顎骨壊死の発症率は、骨粗鬆症患者で0.001~0.1%と報告されているが、その患者数は年々増加の一途をたどっている。今後訪問診療の現場でも顎骨壊死に遭遇する機会が増加すると思われる。今回、訪問診療で薬剤関連顎骨壊死患者への保存的治療(露出骨面の清掃と洗浄、抗菌薬の投与など)を経験したので報告する。

【症例および経過】
患者は94歳女性。住宅型有料老人ホームに入所中。既往歴:慢性腎不全、腎硬化症、MGUS、骨粗鬆症、腎性貧血。薬剤歴:炭酸ランタン、リオナ、ボンビバ。2023年7月、下顎右側臼歯部の歯痛があり近医歯科を受診。その後大学病院顎口腔外科を紹介され、8月、薬剤関連顎骨壊死の診断により、46の抜歯、腐骨除去、歯肉切除が行われた。以降、大学病院にて2~3週間に1回の洗浄を受けてきたが、患者が週3回の透析を行っているため、大学病院への頻回の受診が困難となった。訪問歯科での対応を希望され、9月、当院へ訪問診療の依頼があった。当院初診時、右側頬部の腫脹および圧痛、抜歯創部の骨面露出と多量の排膿を認めた。治療方針は、抗菌薬(アモキシシリン250㎎)の投与および週1回の口腔衛生管理と創部の洗浄とした。訪問診療開始後1ヶ月で大腿骨骨折により、透析を行っていた病院の整形外科へ入院となった。その頃より創部が歯肉で被覆され始め、再び炎症の増悪を認めた。創部を好気的環境にするため歯肉切除を行った。その際、炎症が強く透析後の出血リスクを考え、医科へ抗凝固薬の変更(ヘパリンから低分子ヘパリンへ)を依頼した。以後、週2回口腔衛生管理と創部の洗浄を行っていたが、12月、創部の炎症が増悪したため、医科へ抗菌薬の変更(アモキシシリン250㎎からクリンダマイシン150㎎へ)を依頼した。現在、依然として骨面露出は認められるが、症状は安定している。

【考 察】
今回、訪問診療で顎骨壊死の保存的治療を経験した。治療のゴールが見通せないことによる患者の不安を解消することは難しく、焦りを強く感じた。今後は、医科歯科の連携をさらに強化し、骨吸収抑制薬開始前の口腔内検診の義務化と予後不良歯の積極的抜歯が必要であると考える。

(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)